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京大など、トポロジカル量子コンピュータの実現に重要な準粒子の性質を解明

2021年08月02日16時29分 / 提供:マイナビニュース

京都大学(京大)、科学技術振興機構(JST)、東京大学(東大)、東京工業大学(東工大)、横浜国立大学(横国大)、岡山大学の6者は7月30日、ドイツのケルン大学と共同で、トポロジカル量子コンピュータの実現に有効と考えられている、2次元的な平面構造を持つある種の磁性体において現れる準粒子「非可換エニオン」の性質を解明したと発表した。

同成果は、京大大学院 理学研究科の横井太一大学院生、馬斯嘯大学院生(研究当時)、同・笠原裕一准教授、同・笠原成特任准教授(現:岡山大 異分野基礎科学研究所 教授)、同・松田祐司教授、東大大学院 新領域創成科学研究科の芝内孝禎教授、東工大 理学院物理学系の田中秀数教授、同・栗田伸之助教、横国大大学院 工学研究院の那須譲治准教授、東大大学院 工学系研究科の求幸年教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」に掲載された。

量子コンピュータの活用に向けて、世界中で研究開発が進められているが、その多くは、主に電子や光を使う方法が採用されている。しかしこれらの手法では、熱による擾乱などの環境ノイズによって、量子の状態がすぐに変化してしまうという課題があることが分かっている。

この弱点を克服するため、「トポロジカル量子コンピュータ」と呼ばれる新しい動作原理に基づく方式が提唱されている。トポロジカル量子コンピュータは物質の持つトポロジーを用いて量子情報を保護する仕組みで、その実現の鍵とされているのが、物質中で創発される準粒子(仮想的な粒子)である「非可換エニオン粒子」だという。

3次元空間に存在(実在)する粒子は、必ずフェルミ粒子もしくはボース粒子(ボソンまたはボゾンとも)のどちらかに属するとされており、どちらの粒子も、同種粒子を2回入れ替えると元の状態に戻るとされる。しかし物質中などの2次元世界においては、フェルミ粒子でもボース粒子でもない特殊な粒子が存在し、エニオン粒子もそのうちの1つとされている。

エニオン粒子の交換前後での状態が区別できない場合と、元の状態とは異なる別の状態に変わってしまう場合があり、前者を可換エニオン粒子、後者が非可換エニオン粒子と呼ばれている。

この非可換エニオン粒子を利用することで、量子コンピュータの基本素子である量子ビットを構成することが可能となると考えられている。しかも、粒子の入れ替え自体が量子計算のステップの一部となるとされており、それ故、量子コンピュータを実現するための“ワイルドカード”として期待されているという。

非可換エニオン粒子は、自身がその反粒子と同一という不思議な性質を持つ「マヨラナ粒子」により構成される複合粒子で、2次元物質において創発されることが明らかとなっている。ニュートリノがマヨラナ粒子の候補とされているが、素粒子としてはその存在(実在)が実証されていないという“幻の粒子”といわれている。

しかし最近になってさまざまな物質中でマヨラナ粒子が現れることが指摘され、トポロジカル量子コンピュータの実現を念頭に、非可換エニオン粒子の探索が物質科学の中心課題の1つとなっているという。しかし、これまでのところ超伝導物質を中心に精力的な探索が行われてきたが、決定的な証拠は得られていなかった。

そうした中、新しい物質系として注目されるようになったのが、「キタエフ量子スピン液体」と呼ばれる状態を示す磁性絶縁体だ。通常、物質は温度を下げていくと、水が氷となるように、その物質を構成する原子や分子が周期的に整列した固体となる。しかし、量子力学的なハイゼンベルグの不確定性原理による量子ゆらぎの影響が顕著な場合、絶対零度まで固体になれずに液体のままでとどまることがある。このような状態を「量子液体」といい、その代表例として「液体ヘリウム」が知られている。

キタエフ量子スピン液体では、絶対零度においてもスピンが凍結しないことに加え、電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂し、さらに磁場をかけると非可換エニオン粒子が創発されることが理論的に提案されている。

そこで研究チームは以前、キタエフ量子スピン液体の候補物質である磁性絶縁体「α-RuCl3」(塩化ルテニウム)において実験的研究を実施し、物質中にマヨラナ粒子および非可換エニオン粒子が存在することの証拠を与える「半整数熱量子ホール効果」を観測することに成功し、2018年に報告している。しかし、現実の物質において量子計算の鍵となるこれらの粒子のトポロジカルな特性の詳細はほとんどわかっていなかったという。

そこで今回の研究では、α-RuCl3の量子スピン液体状態において、「熱ホール伝導度」を高い精度で測定することに成功。その結果、「半整数熱量子ホール効果」が、磁場を蜂の巣格子面に平行にかけた場合にも、半整数量子化が起こることを発見したとするほか、磁場を蜂の巣格子面に垂直な方向から±60°傾けたときに、半整数熱量子ホール効果の符号が反転することも確認したとする。

電気の流れない絶縁体であるα-RuCl3において、面に平行な磁場のみで半整数熱量子ホール効果が観測されることは、電子系とは本質的に異なる量子ホール効果が起こっていることを示しており、これはエッジ流が動き回るマヨラナ粒子により運ばれ、試料内部には非可換エニオン粒子が存在することを示していると研究チームでは説明している。

電子系におけるホール効果の符号は、電流を運んでいる電荷の符号が正か負かによって決まるが、マヨラナ粒子は電気的に中性だ。今回の場合、半整数熱量子ホール効果の符号は、マヨラナ粒子の動きが右ひねりと左ひねりのメビウスの輪のどちらに対応するか、といったようなトポロジーにより決まるという。

観測結果から得られた熱量子ホール効果の符号は、理論予想とほぼ一致することが判明。現実物質では、理論模型では考慮されていない相互作用があると考えられるが、今回の研究成果はそのような相互作用によらず、マヨラナ粒子や非可換エニオン粒子が安定して物質中に存在することを示しているとしている。

これらの成果を踏まえ研究チームでは、今後は、トポロジカル量子計算が現実に可能であるかの実証に向けて、これらの粒子を直接検出し、操作する方法の開発を目指すとしている。

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