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新「VAIO Z」1万字インタビュー:VAIO最強のPCはいかにして生まれたのか?

2021年02月18日13時00分 / 提供:マイナビニュース

開発コード名は「FUJI」。その由来とは
VAIOから、フラッグシップモバイルPC「VAIO Z」の新モデルがいよいよ登場した。

最高峰の技術を搭載し、常に「憧れ」のPCを実現してきたVAIO Zが、6年ぶりに刷新。フルカーボンボディの採用をはじめとした数々のブレークスルーによって誕生したその姿は、最高のモバイル体験を実現するPCとして、大きな注目を集めるものになるだろう。

そして、今回のVAIO Zは、プロジェクトリーダーの経験がないエンジニアによって開発するという、VAIO内でも新たな挑戦によって生まれた製品でもある。新たなVAIO Zに携わった5人のエンジニアに、開発に賭けた熱い思いを聞いた。

○最高峰ノートPCが“並外れた”進化へ

VAIO Zは、ソニー時代から、最先端の技術の採用と、常識外のブレークスルーによって、最高のモバイル体験を実現するために開発された、最高峰のモバイルPCでありつづけてきた。

2014年7月にソニーから独立したVAIOが、オリジナル製品第1号としてVAIO Zを2015年2月に発売し、新たな会社の姿勢を示すのに最適な製品だと位置づけたことは見逃せない。VAIO Zのモノづくりによって、独り立ちしても、挑戦する姿勢を失わないことを伝える役割は、しっかりと果たしたといえる。

それから6年。VAIO Zが、新たな進化を遂げることになった。

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部プロジェクトリーダー課の古川恵一プロジェクトリーダーは、「VAIO Zは、最高のアウトプットを求めるお客様の相棒であるために、その時代のVAIOブランドを象徴する、並外れた性能の実現と、新たな次元のモバイル体験ができる製品でなくてはいけない。今回のVAIO Zは、並外れたスピードと、並外れたスタミナ、並外れたタフネスを兼ね備え、新たな体験ができ最高峰のモバイルPCを目指した」と語る。
○新たな開発チームが挑んだVAIO Z

新たなVAIO Zの検討が開始されたのは、2018年12月のことだった。

開発の中心となったのは、これまでにリーダーの経験がないエンジニアたち。古川プロジェクトリーダーのほか、武井孝徳メカニカルリーダー、板倉功周エレクトリカルリーダー、古谷ソフトウェアリーダーの4人のリーダーが選抜された。これまでにもそれぞれの担当領域で、歴代のVAIO Zには関わったことはあったが、中心的な役割を果たしたことはなかった。

第1世代であるtype Zが2008年に登場して以来、歴代のVAIO Zの開発は、メンバーの入れ替わりはあったものの、基本的には固定したチームで行われてきた。だが、今回のVAIO Zは、それとは異なる。新たな世代のVAIO Zを作るために、新たな世代にモノづくりを託すという、まさに新たな挑戦でもあつたのだ。

古川プロジェクトリーダーは、「プロジェクトリーダーに選ばれた当初は、VAIO Zを作ることができるという期待感が大きかった。だが、仕様検討に入ってからは大変なことばかりだった。中途半端なものは出せない。妥協もできない。VAIO Zとしてあるべき姿とはなにか、世の中ではどんな変化が起こり、それにどう応えるべきか。その回答にたどり着くまでには多くの不安があり、多くの壁にぶつかった」と語る。

開発チームに課せられたテーマは、「新たな次元の体験ができるネクストゼネレーションVAIO」である。その上で、開発チームは、VAIO Zとしての妥協なきパフォーマンスとモビリティの追求を共通認識することとし、品質も、品位についても最高を目指すことを掲げた。

最初の作業は、それを実現するために必要な要素を、付箋に書いて、ホワイトボードに貼りだしていくことだった。

「VAIO Zとしてあるべき姿を追求するために、さまざまなアイデアを出し、試行錯誤を重ね、さらに、先輩エンジニアにも意見を聞いたりした。仕様検討は困難を極めた。多くの課題にぶつかりながらも、それらをひとつひとつ解決していった」(古川プロジェクトリーダー)

開発チームは新たなメンバーで構成されたが、VAIO Zが持つ思想はそのまま継承された。これまでの経験や蓄積を生かしながら、新たな世代によって、新たな息吹を吹き込んだのが、今回のVAIO Zである。
開発コードネームに込めた意味

開発コードネームは、「FUJI」。富士山のFUJIから取ったものであり、プロジェクトリーダーである古川氏が名付けた。理由は2つある。

ひとつめは富士山の雄大な姿がVAIO Zの役割に重なったからだ。

「VAIO Zは、VAIOのフラッグシップモデルであり、同時に、開発した技術やノウハウが、VAIOのさまざまなモデルに生かされていくことになる。富士山には広い裾野があるように、VAIO Zが頂上となって、他の製品にも技術が広く波及していくことを示した」と古川プロジェクトリーダーは語る。

開発コードネームの「FUJI」は、大文字で表記される。海外では、ファミリーネームを大文字で書く場合があり、新たなVAIO Zが、VAIOファミリーのトップでありたいという思いを込めたからだ。

そして、もうひとつの理由は、「世界から見た日本の象徴」であることだ。

「VAIO Zは、美しさでも、パフォーマンスでも、世界中で最高のプロダクトでありたい。それは富士山と同じである。これまでは、国内中心にビジネスをしてきたが、今後は海外でもビジネスを拡大したい。VAIO は、世界で輝けるブランドになりたい。それを牽引する製品になる、という思いを込めた」とする。
○ターゲットはトップビジネスアスリート

新しいVAIO Zの開発にあたり、もうひとつ商品企画部門から出てきた提案が、「トップビジネスアスリート」の最高の相棒になるという目標だった。

「トップビジネスアスリート」とはなにか。VAIOによると、さまざまなスポーツのアスリートが、最高のパフォーマンスを出すために最高の道具を手に入れたり、投資を惜しんだりしないのと同じように、仕事の成果を生み出したり、優れたアウトプットを求めたりするために、最高のパフォーマンスを発揮するPCが欲しいという人たちを「トップビジネスアスリート」と位置づけ、これがVAIO Zのターゲットユーザーであるとしている。

「VAIOの本社がある安曇野市の近くには、登山できる山が多いが、登山をするためには、信頼できるギアが求められる。ときには命を預ける場合もあるだろう。ビジネスシーンにおいて、信頼できるツールが欲しい、という人たちにこそ、VAIO Zのこだわりが届き、共感してくれるはずだと考えている。そうした人たちがどんなものが欲しいのか。それが、VAIO Zのコンセプトになっている」(古川プロジェクトリーダー)

開発チームが壁にぶつかったり、選択に悩んだりした時には、「トップビジネスアスリートのためのPCとして、どう判断すべきか」ということが基本姿勢になっていたという。

●最高峰のパフォーマンスを実現するために
VAIO Zを象徴する要素のひとつがパフォーマンスだ。

今回のVAIO Zでは、第11世代Intel CoreシリーズのHプロセッサラインを搭載。第10世代のCore i7を搭載したVAIO SX14に比べて、CPUパワーで1.8倍、GPUパワーで1.6倍もの性能を発揮する。

インテルが、大型クリエイティブノート用高性能プロセッサとして開発したHプロセッサが、1kg以下のノートPCに搭載されるのはVAIO Zだけだ。

○TDP28W対応の予定が一転、TDP35W対応に

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部システム設計課の板倉功周エレクトリカルリーダーは、「当初は、Tiger LakeのUP3(TDP28W)への対応を前提として設計をしていた。だが、インテルとの戦略的関係をもとに話を進めていたところ、インテルからHプロセッサ搭載の提案があった。ぜひ、新たなVAIO Zに採用したいと考え、インテルのサポートを得ながら開発を進めた」とする。

Hプロセッサラインでは、UP3パッケージを拡張することで、TDP35Wまでの熱設計に対応するが、「電源まわりや放熱設計は、高いパフォーマンスを実現することを前提としていたため、途中から設計変更せずに済んだ。いまから振り返ると、Hプロセッサのために設計していた放熱設計だったともいえる」と笑う。

さらに、VAIO Zのパフォーマンスの高さを決定的にするのが、VAIO TruePerformanceである。VAIO TruePerformanceは、電源強化や放熱能力の向上によって、プロセッサの持つ高いパフォーマンスを持続的に発揮できるVAIO独自の技術だ。

今回のVAIO Zに搭載したVAIO TruePerformanceは、電力量をもとに制御していた従来の仕組みから、温度によって制御する方法へと変更。温度が許す限り、パフォーマンスを出し続けることができるように設計されている。

そして、TDP35Wのクーリングシステムを実装するとともに、VAIO TruePerformanceで継続的なパフォーマンスを引き出すため、大型化したヒートパイプとデュアルファンを搭載。「新たなVAIO TruePerformanceの仕組みに耐えられる熱設計を採用した。ターボ時間は、これまでとは比較にならないほど伸びている」という。

デュアルファンは日本電産と共同開発し、低騒音化するため軸受に流体動圧軸受を採用。ファンの羽根は不等配ピッチの採用と最適化により、同等サイズのファンと比較して、低騒音化を図りながら約30%の風量アップを達成したという。

「ファンを3個、4個搭載することも考えた。さらに低騒音になったり、冷却効率を高めたりできるからだ。だが、軽量化や、バッテリーサイズを確保する観点から、最終的にデュアルファンの採用に落ち着いた」(板倉功周エレクトリカルリーダー)

○最大34時間。長時間バッテリー駆動の意味

ストレージには、シーケンシャルリードで6GB/sを超える第4世代ハイスピードSSD(PCIe Gen.4)を採用。最大2TBまでを選択できるようにしたほか、広帯域メモリー規格「LPDDR4X」を採用したメインメモリーを、最大32GBまで搭載可能にした。これもVAIO Zで高いパフォーマンスを実現することにつながっている。

さらに、次世代通信規格5G対応無線WANが選択可能だ。VAIO独自のアンテナ設計により、2本のWi-Fiアンテナと、4×4のWWANアンテナ配置設計によって、MU-MIMOの効果を最大化。4×4アンテナの性能をフルに引き出すため、個々のアンテナの距離を可能な限り離して配置したことで、4本それぞれのアンテナと基地局のアンテナとの間に位相差が生まれ、最大のスループット性能を出すことができるという。

「5Gアンテナの位置にはこだわってきた。ボトムカバー側に配置したアンテナは、設計初期段階からシステムノイズを受けない対策を優先した。VAIO Zでは、使用時にキーボード奥部が持ち上がるチルトアップヒンジ構造を採用しており、これも金属机の影響を受けにくいメリットにつながっている」(板倉エレクトリカルリーダー)

そして、これだけのパフォーマンスを実現しながら、最大で約34時間のバッテリー駆動というスタミナぶりも、新しいVAIO Zの特徴だ。VAIO史上最長となるこの駆動時間は、むしろ、そこまで必要なのかという気にもさせる。

だが、板倉エレクトリカルリーダーは、「実使用環境で、丸一日、外を持ち歩く場合、ACアダプターを携行せずに、安心して利用するには、カタログスペック上では30時間の駆動時間が必要だと考えていた」という。

VAIO Zでは、専用の高容量、薄型軽量の53Whのバッテリーを新開発したことによって、当初の30時間という目標を上回る約34時間のスタミナ駆動を実現(フルHDモデル時)。4Kモデルでも、最大約17時間の駆動を実現した。

モダンスタンバイにも対応しており、スリープ状態から瞬時に復帰。スリープ中も最大限の省電力化が行われており、長時間に渡る移動の際にも、バッテリー残量を気にせずに利用できるという。使いたいときに確実に、最高のパフォーマンスを発揮するためのこだわりのひとつだ。

こうした回路設計やメカ設計では、着実にブレークスルーが行われ、VAIO Zの称号に相応しいパフォーマンスを実現する環境が整いつつあった。

だが、開発チームのなかには、なぜか、閉塞感や物足りなさが支配していた。

●最後のピースを埋めたフルカーボンボディ
2008年のtype Zでは、ハイブリッドグラフィックスを先行して採用。2010年のVAIO ZではクアッドSSD、2011年のVAIO Zでは光ファイバー通信による外付けグラフィックスを採用。そして、2015年のVAIO Zでは、独自の高密度基板と特別設計の放熱機構を採用したZ Engineにより、余裕を持ったパフォーマンスを実現してみせた。突き抜けた性能、それは歴代VAIO Zのコアでもある。

「VAIO Zらしい、突き抜けたピースがもうひとつ欲しい」――そんな雰囲気のなかで迎えた2019年12月の会議で、メカ設計チームからひとつの提案が行われた。

それが、「フルカーボンボディ」。ノートPC筐体を構成するすべての面に、カーボンファイバー素材を使用するというアイデアだ。

○フルカーボンボディへの挑戦

カーボンファイバーは、剛性と軽量化を両立できる素材で、ソニー時代の2003年に限定モデルとして発売した「PCG-X505(VAIOノートEXTREME)」において、世界で初めて、PCのボディにカーボンを採用。2015年に発売したVAIO Zでもボトムケースに使ったり、VAIO SX14の天板にもカーボンを使用したりといったことが行われている。

だが、カーボンは曲がりづらい素材であり、伸びづらく、縮みづらいという特徴を持つ。つまり、成型が難しいというデメリットがあるのだ。

天板やボトムケースのように平面であったり、なだらかに曲がっていたりという程度の成型であれば、これまでにも実績はあったが、ディスプレイ部やキーボート部を含めた4面すべてに採用するとなると話は別だ。より大きく曲げたり、絞ったりといった作業が必要になる。しかも、それを量産モデルで実現しなくてはならない。

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部メカ設計課メカニカル設計課の浅輪勉課長は、「フルカーボン化は、いつかは切りたいカードだった」と、会議の様子を振り返る。

「会議での閉塞感を打破するためには、ここでフルカーボンを提案しないと、前に進まない感じがした。これから3年ぐらいかけて行う技術進歩を、1年でやらなくてはならないぐらいの提案だった。いや、提案したというよりも、やるという覚悟をされられた」。そして、「周りからのプレッシャーが目に見えた」とも表現する。

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部メカ設計課の武井孝徳メカニカルリーダーも、「基礎開発は行っていたが、フルカーボンボディを量産できる確信がない状態だった。だが、VAIO Zには必要な要素だと感じ、そこに飛び込んだ。清水の舞台から飛び降りる覚悟だった」と語る。

その一方で、古川プロジェクトリーダーは、「これで、パズルの最後のピースがはまった。出席者全員が『それだ!』と叫び、部屋の温度が少し上昇したとを感じた」とする。

開発チームは、手作りのモックを作り、VAIOの山本知弘社長、PC事業本部長の林薫取締役執行役員にそれを見せた。

「これは行ける」

経営陣が、VAIO Zとしてのモノづくりに、初めて「お墨つき」を与えた。ここで、新たなVAIO Zのコンセプトが固まったといえる。

○「あと1度」。調整を繰り返した立体成形

なぜ、VAIO Zは、フルカーボンでなくてはいけなかったのか。

武井メカニカルリーダーは、「VAIO Zは、パフャーマンスとモビリティを高い次元で両立することが求められている。並外れたスピードと、並外れたスタミナ、並外れたタフネスを実現しながら、1kgを切ることも実現したいと考えていた」とし、「いままでのPCは、マグネシウムリチウムやアルミニアムなどの金属材料を使って軽量化を図っていたが、金属材料をぎりぎりまで薄くする必要があった。だが、金属材料を薄くして、落下などの衝撃に耐えることは限界に達していた。そこで、剛性と軽量化を両立できるカーボンファイバー積層板の採用を決めた」とする。

先に触れたように、VAIOは、2003年の「VAIOノートEXTREME」で、世界で初めて、カーボンをPCに採用。それ以来、カーボンの研究を積み重ね、ノウハウを蓄積してきた。

「VAIO Zは天板とボトムケースに、カーボンを採用することは決めていた。だが、それだけでは、重量や厚さをブレークスルーすることはできなかった。次に天面とディスプレイ部を一体成型することにした。そして、最後は、キーボード面もカーボンでやることにした」(浅輪課長)

だが、カーボンの立体成型は困難を極めた。

「曲げたり、絞ったりの技術は一朝一夕にはできない。カーボンはアナログな材料であり、イチゼロで成型できるものではない。手で曲げてみることからはじめ、仮型を作って、テストを行い、少しずつ改善を加えながら、手応えを感じていった。あと1度曲げるのが難しかったり、Rを0.1単位で調整したりといったことを行い、ここまでいけるが、これ以上はいけないという、せめぎあいのなかでデザインを決めていった。無理をすれば、カーボンが折れたり、切れたりする。職人がやれば折れずに曲がるというのもある。試作を何度も繰り返し、使える状態にまでもっていった」(浅輪課長)

「カーボンは、材料があるからPCに使えるという単純なものではない」というわけだ。

○天板とディスプレイ部をコの字で一体化

一番難しかったのは、天板とディスプレイ部を一体化する工程だったという。

ディスプレイサイド(ベゼル部)までを巻き込みながら一体化する構造を採用。そのために、コの字形状に曲げる立体成型を行う必要があった。これによって、最小のベゼル幅で大画面液晶を強力に保護しているという。

また、ヒンジ部は、V字の曲げ形状によって剛性を確保。構造がシンプルになったことで、奥行方向の小型化や軽量化にも貢献した。

だが、コの字型の一体形状としたことで、生産工程における液晶パネルやアンテナの組み込み作業が難しくなった。ここは、安曇野生産による組み立て技術の高さと作業の工夫によって、カバーしているという。

また、キーボード面のパームレスト前面および左右の側面も立体構造とし、パームレストの剛性を大きく高め、キーボードの打鍵感を向上。ボトムケース後ろの面角部は、ボトムのしぼりによって筐体の剛性を高めるとともに、内部のリブ構造を減らして、放熱部品や基板へのスペースを広く確保することができたという。

このように、カーボンを曲げる角度や曲率、形状に対して、繊細なコントロールを行い、立体形状を実現。東レとともに培った量産技術の確立と、職人の手仕事による作りこみによる成果だ。

「VAIO Zのフルカーボンボディは、長年のパートナーである東レを軸に、チームジャパンでつくりあげている。カーボン部材は、その各工程において、技術力のある多くの国内企業の力が結集して生み出され、その上にVAIOの製造力をかけあわせて実現している」としながら、「東レをはじめとするパートナー各社も、最初は量産できるとは思っていなかったのではないか」と、浅輪課長は振り返る。
○カーボンを愛するデザイナーが生んだボディ

VAIOが採用しているカーボンは、複数の繊維を重ね合わせた「積層板」である。

武井メカニカルリーダーは、「カーボンは特定の方向に強いという特性があり、カーボンの目を縦横、斜めに組み合わることで剛性を高めたり、成型のしやすさをコントロールできる。何層重ねるか、繊維の種類が違うカーボンをどう組み合わせるか、一層の厚みをどうするか、積層方向はどうするかといった、重ね方にもノウハウがある。天板に使用しているカーボンの積層方法と、ボトムカバーで採用しているカーボンの積層方法は異なり、それぞれに最適化したものを独自に開発した」とする。

天板では「面」で支える力が重視され、ボトムケースではビスの固定を考慮した強度設計が必要となる。VAIO Zでは、形状や大きさ、求められる堅牢性や剛性にあわせて、積層したカーボンを使用しているのだ。

そして、フルカーボンボディは、VAIO Zならではのデザインにもつながっている。

ディスプレイ部の側面の曲げ形状と、ヒンジ側の曲げ形状が集まる部分にもうひとつの一体形状が生まれている。この形状を実現するために熟練の作業者がひとつひとつカーボンを曲げて重ねて製作しており、まさに一点モノのVAIOZに仕上がっていることがわかる部分でもある。

武井メカニカルリーダーは、「樹脂や金属ではできないような形状を生むことができた。繊維が持つしなやかさがあるからこそ、生まれたものであり、カーボンを使っていることの象徴である」としながら、「VAIO Zは、カーボン素材をこよなく愛するデザイナーが担当した。カーボンの存在を本気で生かしたデザインにしなくては意味がないと、日程ぎりぎりまでかかって生まれたデザインだ。成型の難しさをさらに高めることになったが、ここにもVAIO Zとしてのこだわりがある」と語る。

浅輪課長がいうように、VAIO Zに採用されたフルカーボンボディは、3年かけて完成されるはずだった技術だ。2023年の技術が、いま目の前にあるといってもいいだろう。

●キーボード一新、VAIO Zがこだわる使い勝手
VAIO Zは、トップビジネスアスリートが使うPCとして、それに相応しい使い勝手の追求が行われている。その追求のなかで、特筆される取り組みのひとつが、キーボードを一から作り上げたことである。

武井メカニカルリーダーは、「VAIO Zのキーボードに対する打鍵クオリティには高い評価があった。だが、新たなVAIO Zを開発するのにあわせて、社内外の声を改めて聞いた。その声をもとに、すべてを見直し、ストロークやディッシュ形状、バックライト構造なども作り直すことにした」と語る。
○キーのストロークを深め、押し心地を改善

新たなVAIO Zのキーボードでは、これまで1.2mmだったキーストロークを1.5mmに深くし、ストロークの安定性と作動力を見直したほか、キートップにより深いディッシュ(皿)形状を設け、打鍵したときに指が自然とキーの真ん中に行くような形状にした。また、パンタグラフ(構造)の材料も見直すことで、キーの剛性感を高め、打った時の振動を減らし、打鍵時の静音性も確保。その結果、打ち心地に高級感を感じられたという。

「キーの荷重は、従来よりも5g重くした。よりシャープな押し心地で、キーの跳ね返りも強くなっている。指を置いた瞬間から打ち抜くまで、手先に吸いつくかのような心地よい打鍵を目指した。キーボードは自信があるものに仕上がっている。使ってもらうとかなり印象が違うことを感じてもらえる」と、武井メカニカルリーダーは胸を張る。

今後、VAIOのキーストロークは、1.5mmのキーボードが標準になっていくという。

なお、キーボードのバックライト構造も見直しており、光むらがなく、より美しく光るようにしている。また、隠し刻印キートップを改良し、印字部分は、光を透過するようにデザインするといった細かいこだわりもみせている。
○リモートワークの広がりにも対応

コロナ禍でリモートワークが広がるなか、Web会議の利用を見越して、マイクやスピーカーの強化も図っている。

板倉功周エレクトリカルリーダーは、「リモートワークの増加に伴い、マイクやスピーカーの音質に対する要望が増えている。新たなVAIO Zでは、すべてのパフォーマンスを向上させたいと考え、マイクやスピーカーの性能改善も重視した」とする。

内蔵マイクは、機構を見直すとともに、マイク用のクッション材料を見直し、制振性の高いゴムを使用して密閉度を向上。密閉度が上がったことにより、キーボードの打鍵音が筐体内を伝わってマイクで拾うことを低減したり、ビームフォーミングの指向性向上により、周囲のノイズを抑制する性能がアップしたりといった効果が生まれている。

また、約207万画素の高性能フロントカメラの搭載のほか、独自に最適化したDolby Audioによって、音声だけを聞き取りやすくするエフェクト機能の採用、集合会議で便利な大型スピーカーユニットの搭載、プライバシーに配慮したカメラシャッターとマイクミュートショートカット機能の搭載など、Web会議のクオリティを高めるための工夫が凝らされている。
○VAIO User Sensingがもたらす新たなメリット

VAIO Zで新たに搭載されたのが、VAIO User Sensingである。

VAIO User Sensingは、人感センサーと、顔認証および指紋認証の2つの生体認証と組み合わせることで、VAIO Zがユーザーを認識するものだ。PCの前に座るだけでスリープから復帰したり、ログオンしたりする「着席オートログオン」や、PCの前から離れると自動でロックする「離席オートロック」などの機能を提供する。

VAIO PC事業本部エンジニアリング統括部システムソフト課の古谷和之ソフトウェア リーダーは、「センシング技術と生体認証技術を組み合わせて、使いやすさと信頼性を両立しながら、新たな体験を提供する機能がVAIO User Sensing。リモートワークをする人が急増するなかで、セキュリティがより重視されているが、パスワード入力や複雑なパスワードを覚えるのは不便という声もある。そうした課題を、人感センサーと認証技術で解消し、同時に信頼性も実現することができる」と説明する。

PCの起動自体を抑制するBIOS起動時認証では、ワンアクションログオンに対応したり、1度電源ボタンを押すだけで、起動時認証とWindowsログオンの両方を実行できるといった機能も提供する。

「開発当初は顔認証の方が使い勝手がいいと思っていたが、コロナ禍でマスクを使う人が増え、認証するたびに外さなくてはならないという課題が生まれてきた。そこで、指紋認証も活用することで、ユーザーのシチュエーションにあわせて選択できるよう開発中に変更した。今後のVAIOシリーズでも、人感センサーと認証技術を活用していくことになる」(古谷ソフトウェアリーダー)

VAIO User Sensingは、コロナ禍での新たな環境でもメリットを生む機能だといえる。
○180度開くようになったディスプレイ

そのほかにも、VAIO Zならではの使い勝手へのこだわりがある。Type-Cコネクターは、本体両側面に搭載。ポートの位置に影響を受けない給電を可能にしている。

「筐体の両側にType-Cコネクターをレイアウトすることは設計難易度を高めることになる。とくに、VAIO Zでは、デュアルファンの採用などによって、同一基板上にはレイアウトできず、片方はハーネスで接続している。インピーダンスのずれや制御などが難しいが、インテルとの協業もあり実現できた」(板倉エレクトリカルリーダー)

また、新たなVAIO Zでは、180度のディスプレイ開閉を可能にしている。

「膝の上で使うときや、テーブルで相手に画面を見せたいときなど、自由度の高い液晶ディスプレイは使い勝手を高めることができる。VAIOの特徴であるチルトアップ構造を保ったまま、180度の開閉を実現するために、ヒンジの軌道設計を新しく見直した。また、反対側の相手に画面を共有することを想定して、画面とタッチパッドを同時に反転させるショートカットボタンも用意した。新たな世代のVAIO Zが実現する使い勝手のひとつとして、180度開閉を実現することは、利用シーンの広がりにつながると考えた」(武井メカニカルリーダー)

さらに、オプションとして、Type-C 4Kマルチモニタードッキングステーションを新開発した。Type-Cケーブル1本で、4K60Hzモニター2台を接続でき、VAIO Z本体の4K表示とともに、「トリプル4K」という広大な作業領域を実現することもできる。

古川プロジェクトリーダーは、「自宅やオフィスに戻ってきたときに、ケーブル1本でつなげるだけで、快適な作業環境ができる。VAIO Z購入者の3割以上の人に使ってほしいオプション」と話す。
○VAIO Zはユーザーの挑戦にも火をともす

VAIOは、2020年11月にブランドミッションの再定義を行い、「挑戦に火をともそう」という言葉を掲げた。

古川プロジェクトリーダーは、「VAIOは、挑戦をしていく企業であることはこれからも変わらない。今回のVAIO Zでも多くの挑戦を行った。そして、VAIO自身の挑戦を示すことで、VAIOを利用する人たちの挑戦に火をともせる存在になりたいと考えている。ユーザーの挑戦心に火をともすことができる究極のマシンがVAIO Z。挑戦の相棒として使ってほしい」とする。

VAIOは、同社のPCが目指す姿として、「挑戦の友として、心強く、ワクワクして、感動できて、絆を感じ、信じられ、刺激を受け、時にライバルとして切磋琢磨する、相棒」を掲げている。

VAIO Zは、それを真っ先に具現化するPCでもある。

開発の初期段階で、ホワイトボードに貼りだした付箋紙のなかに、目指すVAIO Zの姿として、「艶っぽい」(つやっぽい)という言葉があったという。

これは、PCのスペックや使い勝手、デザインなどのすべてが盛り込まれて、初めて実現する要素といえるかもしれない。

「使っていて気分があがるというのも、過去のVAIO Zが実現してきたこと。こうしたことも含めて、これまで以上に惚れてもらうことができ、艶っぽい新たなVAIO Zが誕生したと思っている」と古川プロジェクトリーダーは語る。

VAIO Zの新たな歴史が始まった。

大河原克行 1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN (ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。 この著者の記事一覧はこちら

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