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理研など、アルファ崩壊の謎に迫るアルファ粒子をスズ原子核表面にて発見

2021年01月22日15時46分 / 提供:マイナビニュース

理化学研究所(理研)、独・ダルムシュタット工科大学、大阪大学(阪大)、京都大学(京大)、宮崎大学、東北大学大阪市立大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)の8者は1月21日、阪大核物理研究センター(RCNP)のサイクロトロン施設の高分解能磁気分析装置を用いた実験により、スズの同位体の原子核表面に存在するアルファ粒子=ヘリウム-4原子核(4He、陽子数2、中性子数2)を発見したと共同で発表した。

同成果は、理研 仁科加速器科学研究センター スピン・アイソスピン研究室のザイホン・ヤン基礎科学特別研究員(現・阪大 核物理研究センター 特任研究員)、同・上坂友洋室長、ダルムシュタット工科大の田中純貴特別研究員(現・理研仁科加速器科学研究センター スピン・アイソスピン研究室 特別研究員)、同・シュテファン・ティペル研究員、トーマス・オーマン教授、RCNPの民井淳准教授、同・小林信之助教、緒方一介准教授、京大 理学研究科の銭廣十三准教授、宮崎大 工学教育研究部 工学基礎教育センターの前田幸重准教授、東北大 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの松田洋平助教、東北大大学院 理学研究科の三木謙二郎助教、JAEAの吉田数貴博士研究員らの国際共同研究チームによるもの。このほか、独・GSI研究所、中国・北京大学、仏・IJC研究所、東京大学、独・HIC-FAIR、研究者を加えた合計34名が参加した。詳細は、米科学雑誌「Science」の掲載に先立ち、オンライン掲載された。

原子物理学が取り扱う基本問題のひとつに、「陽子と中性子のどのような組み合わせが原子核を作り得るのか」がある。最小の原子核は(軽)水素のもので、陽子がひとつ(陽子に電子を加えたものが水素原子)。陽子と中性子の核子がどちらもそろう最小の原子核は重水素のもので、陽子がひとつと中性子がひとつだ。そして、陽子がひとつ増えれば原子番号が変わって別の元素となり、陽子の数が変わらずに中性子だけが増える場合は同じ元素の同位体ということになる。

原子核を描いたイラストとして、陽子と中性子が密着して塊(クラスター)になったものをよく見かけるが、原子番号の大きい元素では間違いではないが、番号の小さい原子の場合は実は異なる。陽子も中性子も原子核中でばらばらに存在しているのだ。ただし、小さくてもクラスターは存在し、その代表的な存在として、陽子2個+中性子2個のヘリウム-4原子核(4He)が存在する。放射線のアルファ線の正体であり、そのことから「アルファ粒子」、「アルファクラスター」などと呼ばれている。

放射性物質がアルファ粒子を放出する崩壊は、「アルファ崩壊」と呼ばれる。19世紀末に最初に発見された放射線の一種で、現在では現在では原子核の基礎研究から医療応用まで広く研究されている。α崩壊がなぜ起きるのかについては、1920年代にロシアの著名な理論物理学者ジョージ・ガモフにより、原子核内で生成されたアルファ粒子が量子トンネル効果により原子核の外へ放出されるとするという説明がなされ、これによりアルファ崩壊の寿命が理解された。

アルファ崩壊のことはすべて理解できたように思えるが、実はそうではない。アルファ粒子が重い原子核中でどのようにして生成されるのか、その原理は今もって完全に解明できてはいないのだ。

そうして中、国際共同研究チームのひとりであるダルムシュタット工科大のドイツ人理論物理学者であるティペル研究員は、2014年に新しく理論を構築。原子核の表面でアルファ粒子の生成が発達することを予言した(科学における「予言」とは、超能力の未来予知的な予言のことではなく、理論的に導き出されているが、実験で確認することができていないといった意味合いで使われる)。

ティペル研究員の理論によれば、アルファ粒子は標準原子核密度(飽和密度)ではあまり発達せず、その1/10程度の低密度領域で発達するという。原子核表面にはこれと同等の低密度領域が存在するため、アルファ粒子が生成されることになる。

また、アルファ粒子の生成に原子核表面の陽子に対する中性子の比率が深く関係していることも、この理論の重要なポイントだという。陽子よりも中性子が多い(中性子過剰な)原子核ほど、表面の中性子比率が大きいため、陽子と中性子を同数持つアルファ粒子の生成は抑制されるとティペル研究員の理論は予言してる。

この原子核表面での中性子比率のひとつの指標に、「中性子スキン」の厚さがある。中性子スキンの厚さは、大質量星の超新星爆発後に残される中性子星(超新星爆発で重力崩壊を起こしてブラックホールになる場合もある)の質量と大きさの関係を与えるパラメータの決定に用いられており、全世界で中性子スキンの厚さを決める研究が進められている。そのため、もしアルファ粒子生成の有無が確認されれば、中性子星の研究にも大きな影響を与えるという。

このように、アルファ崩壊から中性子星の構造解明まで、原子核物理学が関わる多くの重要な課題に関係しているのが、原子核表面でのアルファ粒子の生成だ。しかし、これまで原子核表面におけるアルファ粒子生成は理論的な仮説に過ぎず、その当否は不明のままだったという。そこで国際共同研究チームは、スズ(陽子数50)同位体の表面にアルファ粒子が存在するかどうかの調査を実施することにしたのである。

今回の研究では、RCNPのサイクロトロン加速器を用いて、陽子ビームを光速の約70%に相当する4億電子ボルトまで加速した上で、標的として4種類のスズの安定同位体それぞれに照射が行われた。4種類のスズ同位体は、中性子数62個の112Sn、66個の116Sn、70個の120Sn、74個の124Snだ。スズは原子核の安定同位体が最も多い元素であり、同位体によるアルファ粒子生成数の違いを観察するのに適していることから、今回のターゲットの元素として選定された。

実験は、陽子ビームを用いた「ノックアウト反応」により、スズ同位体標的中のアルファ粒子を叩き出すという内容である。一見すると陽子という弾丸をスズ原子核に当てて、破片としてアルファ粒子を叩き出す荒っぽい実験に思えるかも知れないが、決してそんなことはない。ノックアウト反応は、スズ原子核内でのアルファ粒子の運動に関する情報を取り出すことのできる優れた方法だからだ。

叩き出されたアルファ粒子の運動量は高分解能磁気分析装置の「大口径スペクトロメータ」により、散乱された陽子の運動量は「グランドライデン・スペクトロメータ」により分析が行われた。

アルファ粒子が叩き出されるため、当然スズ原子核はスズ原子核でいられなくなる。陽子数がふたつ減るのでカドミウム(Cd)原子核となり、中性子数もそれぞれ2個ずつ少ない同位体となる。

陽子ビームと112Sn原子核とのノックアウト反応後に生成された108Cd(陽子数48、中性子数60)原子核の励起エネルギースペクトルを見ると、鋭いピークがあり、それは112Sn原子核表面から確かにアルファ粒子が叩き出され、残った108Cd原子核が最もエネルギーの低い基底状態にあることを示しているとする。

このピークが着目され、4種類のスズ同位体原子核の表面におけるアルファ粒子の生成量が算出された。理論予想によると、アルファ粒子生成量は中性子数が多いスズ同位体ほど少なくなるという。

さらにアルファ粒子生成量のスズ原子核の中性子数に対する依存性の理論予想と実験結果を比較すると、実験結果ではアルファ粒子生成量は中性子数が多い原子核ほど減少しており、まさに理論予想の原子核表面のアルファ粒子の特徴を示す形となったという。このことが決定打となり、原子核表面に存在するアルファ粒子を発見したという結論に至ったとする。

今回発見された重い原子核表面におけるアルファ粒子の存在は、従来の重い原子核の描像に変更を迫るものといえるとする。アルファ粒子生成の有無は、中性子星の質量と大きさの関係決定に重要な中性子スキンの厚さに影響を与えることから、今回の成果は中性子星構造の研究にも大きな影響を与えることが考えられるという。

また、アルファ崩壊の謎を解く最後の鍵である原子核内におけるアルファ粒子生成に重要なヒントを与える結果でもある。今後の研究の進展により、アルファ崩壊が完全に理解されることが期待できるとしている。

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