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小型衛星打ち上げの新たな旗手、空中発射ロケット「ローンチャーワン」誕生

2021年01月22日14時46分 / 提供:マイナビニュース

●ヴァージン・オービットが開発した空中発射ロケットが衛星打ち上げに成功
米国の宇宙企業ヴァージン・オービットは2021年1月18日、空中発射型の小型ロケット「ローンチャーワン」による衛星の打ち上げに初めて成功した。

これまで小型・超小型衛星の打ち上げは、米国のロケット・ラボがほぼ独占していたが、ヴァージン・オービットの参入でいよいよ市場競争が始まることになる。

空中発射ロケットは、地上から打ち上げるロケットと比べ、長所もあれば短所もあり、これまでは短所のほうが大きく、商業的な成功を収めた例はない。はたしてローンチャーワンは、その苦い歴史に終止符を打てるのだろうか。

ヴァージン・オービットのローンチャーワン

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、小型・超小型衛星の打ち上げビジネスを目的としている。

サー・リチャード・ブランソン氏が率いる英国ヴァージン・グループの一社で、もとは2012年に、空中発射型の宇宙船を開発しているヴァージン・ギャラクティックの内部プロジェクトとして始まり、2017年に分社化されて独立した。

同社が開発したローンチャーワン(LauncherOne、ランチャーワンとも)は、全長約21mで、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式のロケットである。また、オプションで3段目を追加することもできる。

地球低軌道に約500kg、太陽同期軌道に約300kgの打ち上げ能力をもち、小型・超小型衛星の打ち上げに特化している。この規模のロケットは超小型ロケット(Micro Launcher)と呼ばれ、近年世界的に開発が活発に行われている。

打ち上げ価格は、かつては「1機をまるごと専有する場合で約1200万ドル」とされていたが、現在は価格が公表されておらず、正確な金額は不明である。

そして、ローンチャーワン最大の特徴が、地上の発射台からではなく、空中から発射されるロケットであるということである。発射の母機には「コズミック・ガール(Cosmic Girl)」と名付けられたボーイング747を使い、翼の下に懸架されて高度約3万ft(約9km)まで運ばれたのち、分離。エンジンに点火して飛んでいく。

空中発射には、地上から発射するロケットと比べ、地上に固定の発射台がいらないなどいくつかの利点があり、打ち上げの低コスト化のほか、打ち上げの自由度、柔軟性、即応性を高めることができる可能性がある(詳しくは後述)。

その利点もあり、打ち上げの拠点として、カリフォルニア州のモハーヴェ航空・宇宙港のほか、フロリダ州のケネディ宇宙センター、そして日本の大分空港など、複数の場所を使い、高頻度かつ柔軟な打ち上げサービスを行うことが計画されている。

2回目の発射試験で成功

ヴァージン・オービットは、地上での燃焼試験や、推進剤を積んでいない状態のローンチャーワンを投下する試験などを積み重ねたのち、2020年5月25日(現地時間)に、衛星の軌道投入を目指した初の打ち上げ試験に挑んだ。

しかし、コズミック・ガールからの分離直後、推進剤の供給経路が破損し、エンジンが停止。打ち上げは失敗に終わった。

その後、同社は対策を施し、今回2回目となる衛星打ち上げ試験に挑戦。1回目の試験では、衛星の代わりに重りを搭載して打ち上げられたが、今回はNASAとの契約により、10機のキューブサット(超小型衛星)が搭載された。

ローンチャーワンの2号機はコズミック・ガールに搭載され、日本時間1月18日3時50分(太平洋標準時17日10時50分)に、モハーベ航空・宇宙港を離陸。チャンネル諸島の南約80kmの太平洋上に設定された発射空域へ向けて飛行した。

そして4時39分ごろ、コズミック・ガールから分離。第1段エンジンに点火し、宇宙へ向けて駆け上がっていった。その後、第1段と第2段の分離、第2段の点火にも成功。宇宙空間に到達したあとも軌道速度に向けて加速し、やがて第一宇宙速度に達した。

第2段は一度エンジンを停止。約30分の慣性飛行後、再度エンジンに点火し、目的の軌道に入った。すべてが順調に進み、7時28分ごろ、搭載していた10機のキューブサットを分離し、計画どおりの軌道へと送り込んだ。

この成功により、ローンチャーワンは空中発射型の液体推進剤ロケットとして、初めて軌道に到達したロケットとなった。また、固体推進剤も含めた空中発射ロケットとしては米国ノースロップ・グラマンが運用する「ペガサス」に次いで2例目、米国の民間ベンチャーが開発したロケットが衛星の軌道投入に成功したのは4例目となった。

ヴァージン・オービットのダン・ハート(Dan Hart) CEOは「宇宙への新たな扉が開きました! この革命的な打ち上げシステムを完全に実証するという努力が、完璧な形で報われ、これ以上の喜びはありません」とコメントしている。

また、サー・リチャード・ブランソン氏は「私たちは多くの人々が不可能だと考えていたことを達成することができました。長年の努力の集大成であり、これから多くの小型衛星を軌道へ解き放つことになるでしょう」とコメントしている。

打ち上げ試験が成功したことで、ローンチャーワンは次の打ち上げから、商業サービスに移行することになる。同社はすでに、米国宇宙軍や英国空軍、スウォーム・テクノロジーズ、イタリアのSITAEL、デンマークのGomSpaceなどといった顧客から、衛星の打ち上げ契約を取り付けている。

また、カリフォルニア州ロングビーチにある同社の製造施設では、すでに数機のローンチャーワンの組み立てが進んでいるという。

●ペガサスの失敗を乗り越えられるか、空中発射ロケットにまつわる長所と短所
超小型ロケットの市場競争がスタート

ローンチャーワンが打ち上げに成功したことで、超小型ロケットの分野でいよいよ本格的な市場競争が始まることになる。

これまでこの分野は、米国のロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットがほぼ独占していた。エレクトロンは地球低軌道に約225kg、太陽同期軌道に約100kgの打ち上げ能力をもち、価格は約750万ドルとされる。一方、ローンチャーワンは前述のように、打ち上げ能力はエレクトロンの約2倍、価格も2倍弱の約1200万ドルであり、衛星1機あたりにするとほぼ同じくらいの、いい勝負である。

エレクトロンはすでに18機の打ち上げ実績があり、そのうち失敗は2機のみで、比較的高い成功率と信頼性を誇る。そのため、ローンチャーワンはここから巻き返しを図っていかなければならない。

さらに米国では、この数年のうちに、アストラ(Astra)やファイアフライ(Firefly)、レラティヴィティ・スペース(Relativity Space)といった企業が、エレクトロンやローンチャーワンとほぼ同クラスのロケットの投入を予定しており、ヴァージン・オービットは追いかける立場でありながら、ロケット・ラボとともに追いかけられる立場にもなり、激しい市場競争が予想される。

そこにおいて同社が強みとしてアピールしているのが、空中発射による低コスト化、そして高い打ち上げの自由度、柔軟性、即応性である。

たとえば、ロケットやエンジンの最適な形状や仕組みなどは、大気密度によって変わるため、最初から空気の薄い上空から発射できるようすることで、ロケットの設計を最適化でき、効率よく飛ばすことができる。また、大掛かりな発射台が必要ないため、建設費や運用・維持費を抑えることができるという利点もある。ロケットの打ち上げごとに発射台を整備する必要もないため、打ち上げの頻度も増やせる。

さらに、人家などを避けて飛ばすことができるため、打ち上げ方向、すなわち衛星を投入する軌道の傾斜角を自由に選べるほか、進路上に船などが侵入した場合などでも、場所を変えて打ち上げることができる。

同社はこれにより、地上からの発射に比べ、同じロケットでもより重い衛星を飛ばせるほか、さまざまな場所からあらゆる軌道に打ち上げができ、さらに急な打ち上げの要求にも応えることができるとしている。

空中発射には欠点も、ペガサスのつまずき

もっとも、空中発射にはいくつか欠点もある。たとえば、固定の発射台は必要ないとはいえ、ロケットや衛星には電力や空調を供給する必要があるため、飛行機に地上の発射台と同じような機能をもたせなければならない。

また、地上側にも、ロケットや衛星を組み立てたり整備したりするための施設が必要なうえに、飛行機の整備も必要になる。さらに、ロケットには推進剤が満載されているため運用が難しいといった問題もある。

つまり、空中発射は決して地上からの発射に比べて楽ということはなく、長所と同じくらい、場合よっては長所をかき消してしまいかねないほどの短所がある。

じつは、宇宙開発史において、空中発射ロケットには苦い過去がある。米国のオービタル・サイエンシズ(現ノースロップ・グラマン)が1990年に開発した、世界初の空中発射型の衛星打ち上げロケットであるペガサスのつまずきである。

ペガサスはローンチャーワンとほぼ同じ打ち上げ能力のロケットで、「空中発射により打ち上げの低コスト化、自由度、柔軟性、即応性の向上を実現」という謳い文句を掲げていたところも同じである。

しかし実際には、打ち上げコストは1994年に約1100万ドルだったのが、近年では約6000万ドルにまで高騰していると伝えられる。これはペガサスの約40倍の打ち上げ能力をもつ「ファルコン9」とほぼ同じコストである。さらに、打ち上げ数はデビューから30年でわずか44機にとどまっている。

コストを押し上げた要因のひとつが、空中発射母機として使っている「スターゲイザー」が、ロッキード L-1011 トライスターを改造した機体であるという点である。同機は1974年に製造されたものですでに老朽化が進んでおり、さらに他のトライスターはほとんどが退役しており、現在空を飛べるのはスターゲイザーしかなく、メンテナンスや部品交換に支障が出ている。また、いつでも飛べる状態に維持するのにも、地上設備と同じく手間がかかる。その結果、維持や整備にかかるコストが大きくなり、それが打ち上げコストに響いている。

さらに、打ち上げの準備や整備に専用の施設が必要であったり、取り扱いの難しい固体推進剤を使っていたりと、他にもコストを押し上げる要因をいくつも抱えている。その結果、打ち上げ数も伸び悩み、それがコストをさらに押し上げる要因にもなっている。

空中発射ロケットを実用化させた功績は大きいが、商業的には失敗したと言えよう。

ペガサスの失敗を乗り越えられるか

一方、ヴァージン・オービットの関係者はたびたび「ペガサスを反面教師にする」と語るなど、ローンチャーワンにはペガサスで足かせとなった部分を改善するという意図が現れている。

たとえば、ペガサスは固体推進剤を使うため、つねに火薬の塊が存在するようなもので扱いが難しく、また発射を中止した場合には、その塊を抱えたまま飛行場に戻ってくることもあり、運用できる空港が限られていた。

一方ローンチャーワンは液体推進剤なので、推進剤を抜いた状態で組み立てや整備ができたり、発射中止の場合も空中で推進剤を排出し、安全な状態で着陸したりできる。このため、軍事基地や宇宙基地はもちろん、民間空港であっても、ローンチャーワンの運用を前提にルールなどを整備すれば、問題なく運用できるようになっている。事実、前述のように日本の大分空港などを拠点に運用することが決まっている。

また、衛星の搭載や発射前の整備などのために、トレーラーを改造した可搬式の地上支援車両が開発されており、地上側で必要となる固定設備を減らす試みがなされている。これにより、大分空港など複数の空港での運用を可能にしているばかりか、施設の維持・運用費も低減できる。

しかし、飛行機については、ペガサスと同様にアキレス腱となる可能性がある。コズミック・ガールに使われているボーイング747は、厳密には2001年に製造されたボーイング747-400という機種で、スターゲイザーほどではないにせよ老朽化が進んでいることは否めない。また、燃費などに優れた新型機が登場していることから、世界中でボーイング747-400の退役が進んでいる。

つまり、コズミック・ガールはそう遠くないうちに退役を余儀なくされる可能性があり、あるいは延命するにしても、他に運航している航空会社がなくなることで、空港での整備や機体の維持がしづらくなる可能性がある。とくにヴァージン・オービットの構想どおり、さまざまな空港を拠点に高頻度での発射を行おうとすればするほど、この問題はより顕著となろう。かといって、別の新しい飛行機を使う場合には、再度試験をやり直す必要が生じる。

はたしてローンチャーワンは、ペガサスの二の舞となることなく、小型・超小型衛星打ち上げの旗手となることができるのか。衛星打ち上げに成功したいま、空中発射ロケットの苦い歴史を乗り越え、商業打ち上げ市場で勝つという、ヴァージン・オービットの新たな挑戦が始まった。

○参考文献

・Virgin Orbit Aces Second Launch Demo and Deploys NASA Payloads | Virgin Orbit
・Technology - A New Approach To Proven Technology | Virgin Orbit
・Virgin’s satellite launcher reaches orbit for first time - Spaceflight Now
・Virgin Orbit Ignites LauncherOne Rocket During First Launch Demo, Mission Safely Terminated | Virgin Orbit
・Pegasus Rocket - Northrop Grumman

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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