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NASAの巨大ロケット「SLS」、エンジン試験で問題発生 - 24年の月着陸に暗雲

2021年01月22日07時00分 / 提供:マイナビニュース

●2021年末の初飛行に向けた最後の関門、「グリーン・ラン」試験
米国航空宇宙局(NASA)は2021年1月17日(日本時間)、有人月探査計画「アルテミス」で使う巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」のエンジン燃焼試験を実施した。

試験はミシシッピ州にあるNASAジョン・C・ステニス宇宙センターで行われた。燃焼時間は約8分間の予定だったが、約1分でエンジンが停止。今年末に予定されている初飛行や、2024年の有人月着陸の実現に黄色信号が灯った。

スペース・ローンチ・システム(SLS)

スペース・ローンチ・システム(SLS:Space Launch System)はNASAとボーイングが開発している巨大ロケットで、アポロ計画以来となる有人月探査計画「アルテミス」の実現や、月周回有人拠点「ゲートウェイ(Getaway)」の建設、そして2030年代に予定されている有人火星探査を実現するための、重要な使命を背負っている。

全長は約111.3m、直径は8.4mで、22階建てのビルに相当する。地球低軌道に約100t、月に向けては約30tもの打ち上げ能力をもち、かつて人類を月に送った「サターンV」を現代に蘇らせたようなロケットである。

SLSは2段式で、第1段はコア・ステージと呼び、その上には第2段、さらにその上に宇宙船などのペイロードが載る。またコア・ステージの両側には固体ロケット・ブースターを装備する。

機体やロケット・エンジンなどは、開発コストや期間の削減などを目的に、スペースシャトルの遺産を最大限に活用している。たとえばコア・ステージのタンクは、シャトルの外部燃料タンク(ET)をほぼ流用。エンジンも、シャトルのメイン・エンジンとして使っていた「RS-25(SSME)」を1基増やして4基装備する。さらに、固体ロケット・ブースターも、シャトルのSRBを継ぎ足して延長したものを使用する。

また、ミッションに応じて有人ロケット型や物資運搬型などに機体構成を変えることができ、さらに将来的には、ブースターや2段目の改良などで、段階的に能力を向上させる計画もある。

SLSは2011年、オバマ政権下で開発が決定され、検討が行われたのち、2014年から本格的な開発段階に入った。当初は2018年ごろに初飛行する予定だったが、技術的な問題や、災害による開発拠点の損傷などでスケジュールは何度も遅れ、それにともなうコスト超過にも悩まされている。

一時は初飛行の時期や月への飛行時期を遅らせることも検討されていたが、トランプ政権下で「2024年までに有人月着陸を実施する」ことが決定。NASAとボーイングは急ピッチで開発や試験を続けている。

現時点で、SLSは2021年11月に初飛行を行うことが計画されている。このミッションは「アルテミスI」と呼ばれ、無人のオライオン宇宙船を月へ向けて打ち上げる。オライオンは月の周回軌道に入り、約2週間ほど滞在したのち地球へ帰還する。

その結果を踏まえ、2023年には「アルテミスII」を実施。オライオンに宇宙飛行士が乗り、SLSで月へ向かって飛行したのち、月の裏側を回って地球へ帰還する。

そして2024年、「アルテミスIII」ミッションで、4人の宇宙飛行士が乗ったオライオンをSLSで打ち上げ、アポロ計画以来となる有人月着陸の実施が計画されている。

打ち上げに向けた最後の関門「グリーン・ラン」試験

そして、アルテミスIに向けた最後の関門となるのが「グリーン・ラン(Green Run)」と呼ばれる試験である。今年11月にアルテミスIミッションで実際に打ち上げる機体を使って、コア・ステージの全体的な機能や性能などを確認することを目的としている。

一時は遅れている開発スケジュールを短縮させるため、またシャトルのタンクやエンジンを流用していることもあって、試験を省略、すなわち2021年11月にぶっつけ本番で打ち上げることも検討されていたが、最終的には実施することで決まった。

グリーン・ラン試験は2020年1月から始まり、新型コロナウイルス感染症やハリケーンなどの影響でたびたび中断したものの、8つ中7つの試験をクリア。そして今回の燃焼試験が、その最後の試験項目だった。

この試験は、実際と同じ手順で打ち上げに向けた準備を行い、そして4基のRS-25エンジンに点火し、実際の飛行と同じ時間だけ燃焼させる。ブースターや第2段を装備しないことや、発射台から飛び立たないことを除けば、本番の打ち上げとほぼ同じ状況を作り出し、確認することができる。

そして日本時間1月17日7時27分(米中部時間16日16時27分)、エンジンに点火した。燃焼時間は約8分間(485秒間)の予定だったが、何らかの問題が起き、燃焼開始から67.2秒後にコンピューターが自動でエンジンを停止させた。

試験前、NASAは「485秒間の燃焼時間のうち、250秒で必要なデータのほとんどを収集できる」としていたが、それにまったく満たない時間で終わったことで、試験としては失敗ともいえる形となった。

19日には、NASAが初期調査の結果を発表。それによると、燃焼中に4基あるエンジンのうち、2番エンジン(E2056)において、推力ベクトル制御(TVC)システムのパラメーターが限界値を超えていたことが判明したという。

RS-25は、飛行中のロケットの姿勢や飛行方向を制御するために、ノズルを動かして噴射方向を変える仕組みをもっている。これをTVC(Thrust Vector Control)と呼ぶ。TVCを動かす動力源は、コア・ステージ補助動力ユニット(CAPU)から供給される油圧を使っている。

今回の試験中には、そのCAPUの油圧系のパラメーターのひとつが、あらかじめ設定していた限界値を超えたため、コンピューターが自動的にエンジンを停止させたとしている。

またNASAによると、「この値は試験のために意図的に保守的に設定していたものであり、実際の打ち上げであればもっと緩い値となるため、問題は起こらなかっただろう」としている。また仮に、飛行中に同様の問題が起きたとしても、「他のCAPUを使ってTVCシステムに動力を供給することで飛行を継続することができる」という。

なお、今回の試験中には、エンジン点火から約1.5秒後に、4番エンジン(E2060)の、計装を支える支柱のうち、冗長性のために取り付けられている1本が損傷するという問題も起きている。ただ、エンジンそのものには影響はなく、また早期の燃焼停止とも無関係だという。

エンジン燃焼中にまた、エンジン周辺で閃光が発生したことも確認されており、こちらについては現在も調査が続いている。

なお、この閃光との関連は不明と前置きしたうえで、試験後の点検で、エンジンを保護するサーマル・ブランケットの一部が焦げ付いていることが確認できたという。この部分は、エンジンとCAPUの排気の近くにあることから熱的に厳しい環境にあり、そのため焦げ付きは想定内であり、またセンサーからのデータでは温度は正常であり、ブランケットがエンジンとCAPUの排気の熱から、ロケットを十分に保護できていたことが示されているとしている。

●遅延と予算超過を繰り返すSLS、今年末の初飛行に黄色信号
打ち上げへの影響は不明

今回の試験後、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「この試験は、SLSのコア・ステージが、アルテミスIミッションの準備ができていること、そして将来のミッションで宇宙飛行士を運ぶための準備ができていることを確認するための重要な一歩でした。エンジンの燃焼時間は予定どおりとはいきませんでしたが、チームは点火までの準備作業を成功させ、そしてエンジンに点火し、私たちの進むべき道を知らせるための貴重なデータを得ることができました」と、前向きなコメントを述べている。

ただ、燃焼時間が不十分な結果に終わったことで、燃焼試験を再度実施したり、その結果開発スケジュールや打ち上げ時期に影響が出たりする可能性も考えられる。

NASAは現在もデータ分析を続けており、今後、2回目の燃焼試験が必要かどうかを判断するとしている。なお、エンジンを含めコア・ステージに損傷は見られず、状態は良好だという。また、燃焼試験を再度実施する場合でも、またこのまま打ち上げる場合でも、TVCのパラメーターを調整することで、今回のようなエンジン停止を防ぐことができるだろうとしている。

ブライデンスタイン長官は19日に行われた記者会見で、「再度燃焼試験を行うべき理由と、行わないほうがいい理由があります」と述べ、判断の難しさをにじませた。

たしかに、RS-25はすでにスペースシャトルで何回も飛行した実績があり、また今回起こった問題そのものは、試験特有のもので、実際の飛行では起こりにくいものだったかもしれない。

しかし、これまでにRS-25を4基同時に噴射して飛行したことはなく、そもそもNASA自身が今回の試験の成功ラインと定めていた、250秒間の燃焼すらクリアすることができなかった。したがって、再度燃焼試験をせずに打ち上げるというのは大きなリスクがある。アルテミスIは無人のミッションだが、もし打ち上げが失敗すれば、その後の計画へのダメージは計り知れない。

かといって、もし2回目の燃焼試験を行うなら、もともとかなり厳しいスケジュールがさらに厳しくなり、やはりその後の計画に影響が出る可能性がある。試験後の記者会見で、SLSのプログラム・マネージャーを務めるジョン・ハニーカット(John Honeycutt)氏は「エンジンの再試験のためには、準備に最低でも21日から30日はかかるだろう」とコメントしている。

またブライデンスタイン長官は、再試験を行うべきか否かの判断を難しくしている要因のひとつとして、コア・ステージの寿命をあげている。コア・ステージは液体水素と液体酸素の推進剤を9回充填できるように設計されており、そしてこれまでに、昨年12月の試験と、今回の燃焼試験で2回充填を行っている。もし、燃焼試験を再度行う場合、少なくとももう1回は推進剤を充填することになる。

つまりその分、実際の打ち上げの際に、推進剤を充填できる回数が減ってしまい、たとえば最悪のシナリオとして、充填後の打ち上げ延期が6回続けば、タンクを取り替えなければならなくなってしまう。

一般論から言えば、再試験を行うべきであることは明白である。ロケット開発の世界では「Test as You Fly, Fly as You Test」という長年語り継がれてきた格言がある。「飛ぶように試験し、試験したとおりに飛ばせ」という意味だ。それを徹底してもなお、新しい課題が出てきたり、打ち上げが失敗したりするのがロケット開発の難しさである。

かつてスペースシャトル計画の責任者を務め、現在はNASA諮問委員会の有人探査・運用委員会の委員長を務めるウェイン・ヘール(Wayne Hale)氏も「私は再度試験を行い、完全なデータを取得するべきだと思います。数週間の遅れが出るかもしれませんが、安全第一で、スケジュールは二の次に考えるべきです」とコメントしている。

小さなつまずきが、計画にとって大きなつまずきとなるか

そして、再試験を行うかどうか、またそれによるスケジュールへの影響がどうなるかという問題と同時に、今回の試験でのつまずきは、SLS計画を続けるべきかどうかという点にも影響を与えるかもしれない。

そもそも今回の試験は、新しいエンジンなり技術なりが動くかどうか試してみるという部類のものではなく、今年11月に実際に打ち上げられる機体を用いて、何度も各要素の試験を行ったうえで、打ち上げ前の最後の確認のために行われたものであり、ある意味では成功して当然というものであった。同じ「試験」でも、スペースXの「スターシップ」の飛行試験のような、「とりあえず飛ばしてみる」というようなものとは、質の異なるものであったことは留意しなければならない。

それでなくとも、SLSの開発は、すでに何年もの遅延と30億ドル近いコスト超過を起こしており、大きな批判にさらされている。そのため最近では、スペースXの「ファルコン・ヘヴィ」などを2回に分けて打ち上げるなどし、SLSを中止してアルテミス計画を進めるべきという意見もある。

また米国議会は、2021会計年度の宇宙予算において、NASAがアルテミス計画に必要とした要求額より少ない金額しか認めておらず、2024年に月面着陸を実施するという計画が難しくなりつつある。

そして、そこへ政権交代も重なる。もともとオバマ政権時代に、月面着陸は早くとも2028年ごろと想定されていたこともあり、そこに開発の遅延、そして今回の問題が重なったことで、バイデン政権でスケジュールを後ろ倒しする判断が下される可能性もある。

今回の試験におけるつまずきは小さなものかもしれないが、SLSの開発やアルテミス計画にとっては大きなつまずきとなるかもしれない。

○参考文献

・NASA Conducts Test of SLS Rocket Core Stage for Artemis I Moon Mission | NASA
・Green Run Update: Data and Inspections Indicate Core Stage in Good Condition - Artemis
・Space Launch System | NASA
・Space Launch System Core Stage Green Run Testing | NASA

鳥嶋真也 とりしましんや

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