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軍事とIT 第383回 ミサイル防衛に関する最近の話題(6)SPY-7レーダーの最新情報

2021年01月09日11時36分 / 提供:マイナビニュース

1年ほど前に第332回~333回で、ロッキード・マーティンのフェーズド・アレイ・レーダー「LRDR(Long Range Discrimination Radar)」と、そこから派生したAN/SPY-7レーダーについて取り上げた。その後、新たな情報を得られたので、以前に書いた話の訂正も含めて、フォローアップ情報をまとめておきたい。
送受信モジュールに関する訂正

まず、LRDRとAN/SPY-7が共用している送受信モジュールに関する訂正から。

以前、「一辺が約1フィート(30.48cm)のモジュール」と書いたのだが、実はこれがいささかザックリしすぎた数字で、実際にはもっと小さかった。筆者が、ニュージャージー訛りの英語を聞き間違えたわけではない……はずだ。

ロッキード・マーティンでは、LRDRやAN/SPY-7で使用している送受信機のユニットを「サブアレイ・スイート」と呼んでいる。その寸法は、幅が約15cm、高さが約20cm、奥行きが約55cm。外側に面する端面に16個のアンテナ(送受信エレメント)が並んでおり、その背面に送受信機や電源などのアセンブリを組み合わせている。

LRDRは1面で3,000個のサブアレイ・スイートを使用するので、送受信エレメントは3,000×16=48,000個という計算になる。サブアレイ・スイートの寸法から概算すると、LRDRでは横15個×縦20個、あるいは横14個×縦21個ぐらいの配列になるのではないか、と推算できそうだ。

日本向けイージス・アショアのAN/SPY-7(V)1はLRDRよりも小型だから、使用するサブアレイ・スイートの数も少なくなる。AN/SPY-7(V)1のアンテナ・アレイが3.5m四方とすれば、サブアレイ・スイートの数は400個をいくらか下回るぐらいになるだろうか。送受信エレメントの数は、その16倍だ。

面白いのは、サブアレイ・スイートをまるごとホットスワップできるだけでなく、そのサブアレイ・スイートの背面側に組み込まれている電源や送受信機のアセンブリ単位でも脱着ができること。ホットスワップができるから、交換のためにいちいちレーダーを止める必要はない。

しかも、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーでは、一部の送受信モジュールが故障しても全体の機能低下は緩やかなレベルにとどまる。だから、ホットスワップができるLRDRやAN/SPY-7(V)1は、二重の意味で可用性が高いといえる。
弾道ミサイル防衛専用、ではない

LRDRが、アメリカ本土に飛来する弾道ミサイルの探知・追尾・識別用だからということで、AN/SPY-7(V)1についても「弾道ミサイルしか対応できないのではないか」という人がいるようだ。ただ、ロッキード・マーティンはこれについて明確に否定しており、宇宙空間を周回する人工衛星や大気圏内を飛行する航空機を対象として、追尾試験を行ったとしている。

第一、AN/SPY-7(V)1と同系列の派生モデルをスペインやカナダが艦載対空捜索レーダーとして採用しているのだから、その時点で「弾道ミサイルしか追尾できない」という話は成立しなくなる。

そもそも「弾道ミサイルしか追尾できないレーダー」とはいったい何だろうか。

弾道ミサイルは大抵の航空機よりも速度が速いから、処理能力の速さが問題になる。そして、飛翔する高度範囲は地上・海上から大気圏外に及ぶから、航空機探知用のレーダーよりも高い仰角までカバーできなければ仕事にならない。しかも、再突入体が分離すれば、それは航空機やミサイル本体と比べてはるかに小さい。

そんな困難な探知目標に対応できるレーダーであれば、他の探知目標に対応できる、あるいは対応できるポテンシャルがあると考えるのが自然ではないか。「航空機探知用のレーダーだから、弾道ミサイルに対応できない」ならわかるが。

レーダーが探知を成立させられるかどうかは、まず探知目標から反射波が返ってくるかどうか、そして、その反射波を受信してシグナル処理を行えるかどうか、にかかっている。それは、ビームの送受信を行う範囲をどの程度に設定するか、という問題でもある。まさかとは思うが、「弾道ミサイルは頭上から降ってくるものだから、弾道ミサイル用のレーダーは真上の方だけ見ている」とでも思っているのだろうか。

弾道ミサイルを対象とするレーダーは、できるだけ長い時間にわたって探知・追尾を継続して、飛翔経路を精確に突き止めなければならない(それができなければ、着弾地点の予測ができない)。だから、対象が水平線から姿を現した途端に追尾を開始する。現に、各地に設置されている弾道ミサイル追尾用レーダーのアンテナは、どちらかというと水平に近い向きになっている。真上を向いているわけではない。
ソフトウェアは継続的に改良される

これはLRDRやAN/SPY-7(V)1に限らず、デジタル化された当節のレーダー(もちろん、レイセオン・テクノロジーズ製のAN/SPY-6(V)一族も含む)では、送信するビームの制御も、受信した反射波に対するシグナル処理も、それに基づくトラック・データの処理も、ソフトウェアによって実現している。

だから、ソフトウェアの改良が進めば能力も向上する。すべてハードウェアで作り込んでしまうと、そのハードウェアが完成した時点で能力は固定化されるが、ソフトウェアで制御するレーダーは話が違う。実際、ロッキード・マーティンの担当者は「新たな脅威が出現した時は、ソフトウェアの更新で対処する」と述べている。

ちなみに、現⾏のイージス艦が使⽤しているAN/SPY-1はパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーで、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーよりも可用性が低い。また、ビームの制御、シグナル処理、トラック・データの管理といった機能は、イージス・システムの側で⾯倒を⾒ている。しかしAN/SPY-7(V)1やAN/SPY-6(V)の⼀族は、これらの機能をレーダー側に移している。

だから、イージス・システムは探知目標に関するデータ(トラック・データ)を受け取るだけだ。あとは、受け取ったトラック・データに基づいて脅威評価や交戦を行う図式となっている。レーダーとイージス・システムの機能分担が明確になるので、新しいレーダーを組み合わせる際のインテグレーション作業が容易になると考えられる。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。

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