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米国、宇宙探査に原子力を本格活用、原子炉発電と原子力ロケットを開発へ

2021年01月06日07時00分 / 提供:マイナビニュース

米国のドナルド・トランプ大統領は2020年12月16日、宇宙における原子力の活用を促進することを定めた国家戦略「宇宙政策指令第6号(SPD-6:Space Policy Directive-6)」を発表した。

将来の有人月・火星探査での活用を見据えたもので、これまでも宇宙探査の分野で使われてきた放射性同位体を使った発電システムを高度化するとともに、新たに原子炉を使った発電や原子力ロケットも実用化するという。

宇宙における原子力

米国の宇宙における原子力利用の歴史は古く、その開発は1950年代から始まり、1961年には早くも、世界初の原子力を使った衛星を打ち上げている。その後も火星探査車「キュリオシティ」や土星探査機「カッシーニ」など、用途は限定的ながら使用され続けている。

もっとも、原子力とはいっても、その多くは核分裂を伴う原子炉ではなく、プルトニウム238(Plutonium-238、238Pu) のような放射性同位体の崩壊熱を利用し、熱電効果で発電したり、その熱を利用して保温したりといった使い方が主流となっている。一時期、米国とソ連で宇宙用原子炉が実用化され、実際に衛星に搭載されて打ち上げられたこともあったが、現在では廃れている。

しかし、将来的にいまよりも大型の惑星探査機を打ち上げたり、あるいは火星以遠への有人探査に挑もうとしたり、月面基地を造ろうとしたりといったことを考えると、原子炉による発電も有力な選択肢となりうる。

宇宙で原子力を使う利点としては、太陽エネルギーが不十分な環境下でも安定した発電ができ、また太陽電池など他のエネルギー源と比較して、より多くの電力を、より少ない質量と体積で生産することができることがあげられている。

また電力源としてだけではなく、原子力を推進力とする「原子力ロケット」という使い方もある。従来のような化学ロケットでは、火星より先へ飛行するには莫大な推進剤が必要になり、そのために宇宙船全体をなるべく軽くしなければならず、またたくさんの人員や物資も運ぶことができない。一方、ウランなどの核燃料はエネルギー密度が高く、またロケットとしての効率も高くできるため、設計や運用の自由度が高くでき、また実現性も高くなる。

今回トランプ大統領が発表したSPD-6では、宇宙船や、天体の表面を走る探査車、また各種観測装置や宇宙飛行士の居住空間の電力として使うため、放射性同位体電力システム(RPS)を高度化するとともに、新たに原子炉による発電システムや推進システムも開発するとしている。

SPD-6で定められた主な方針は以下のとおりとなる。

米国は、宇宙における原子力発電と推進(SNPP:Space Nuclear Power and Propulsion)の開発と利用のために、以下の可能性と野心的な目標を追求する。

天体表面および宇宙空間でのさまざまなSNPPの利用に適した燃料の製造を可能にする能力を開発する。
月面での原子力発電システムの実証。
宇宙空間での原子力推進の選択肢を可能にする技術的基盤と能力を確立する。
高度な放射性同位体発電システムを開発し、地上設備やシステムの生存性を高め、また無人探査機による太陽系探査の範囲を拡大する。

米国は、SNPPシステムの開発と利用において、安全性、機密性、持続可能性の原則を遵守する。
米国は、政府が支援するSNPP活動のために定められたロードマップと、目標の達成と指令で定められた原則を守るために商業活動を奨励する枠組みを追求する。

これにより、月や火星における持続的な探査、活動が可能になるとし、その能力は宇宙における米国の優位性と戦略的リーダーシップを維持し、推進するために不可欠であるとされている。

なお、これに先立つ2019年8月20日には、国家安全保障理事会覚書20(NSPM-20)において、宇宙における原子力の使用に関するプロセスが更新され、原子炉の打ち上げなどが従来より自由に行えるようになっている。

NASAによるNSPP開発の動き

SPD-6の発表を受け、NASAは翌12月17日、米国エネルギー省や産業界と協力して、10kW級の原子炉を開発し、2020年代後半に月面で実証することを短期的な目標にすると発表している。

現在NASAが進めている「アルテミス」計画においては、2024年以降に継続的な有人月探査活動を行うことが予定されており、そこに電力を供給するとともに、火星での使用の可能性も視野に入れた試験を行うとしている。またそのために、将来的に出力を40kW以上にまで拡大する計画だという。

一方、原子力ロケットに関しては、原子炉の炉心で推進剤を加熱し、膨張したガスを噴射して飛ぶ「核熱ロケット」と、原子力発電で作った電力で電気推進エンジンを動かす「核電気推進」の2種類の開発が検討されている。

核熱ロケットは、宇宙空間では高い効率と推進力を発揮でき、従来の化学推進エンジンを使用した場合に比べて、火星への所要時間を20~25%短縮できるという。この種のロケットは、かつて米国やソ連で開発され、噴射試験が行われたこともあるが、実用化には至っていない。

なお、原子力の使用は被曝が問題となるが、NASAによると、そもそも宇宙飛行においては宇宙線による被曝があり、また原子炉から出る放射線よりもその度合いが大きいことから、核熱ロケットで飛行時間を減らすほうが、人体への総被曝量を減らせるという。

一方の核電気推進は、推進力は熱核エンジンや従来の化学ロケットよりも劣るものの、非常に燃費が良く、また電気推進エンジン自体はイオン・エンジン、ホール・スラスターなどすでに実用化されている技術でもあるため、実現性も高い。

すでにNASAでは、エネルギー省と国防総省と協力し、原子力推進システムのための技術と核燃料であるウランの製造能力を開発するための取り組みの一部を始めており、今後開発におけるリスクを低減し、また原子炉の設計を成熟させるための開発を行っていくとしている。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官は、「有人月探査は、新たな科学と、そして太陽系の奥深くへの有人ミッションのための前段階となります。SPD-6は、有人宇宙探査活動に継続的に電力を供給し、そして低コストかつ安全で信頼性の高い原子力システムを開発するためのNASAの取り組みを強化し、将来の火星への有人ミッションを実現させることになるでしょう」と語っている。

○参考文献

・NASA Supports America's National Strategy for Space Nuclear Power and | NASA
・Memorandum on the National Strategy for Space Nuclear Power and Propulsion (Space Policy Directive-6) | The White House
・Space Nuclear Mission History | Department of Energy

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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