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アレシボ天文台の305m電波望遠鏡、解体を待たず崩壊 - 57年の歴史に幕

2020年12月05日06時00分 / 提供:マイナビニュース

全米科学財団(NSF)は2020年12月1日(現地時間)、プエルトリコにあるアレシボ天文台の305m電波望遠鏡が崩壊したと発表した。

同望遠鏡は老朽化が進み、今年8月や11月にはケーブルが破損する事故が発生。NSFは先月、修理は不可能とし、解体を決めたばかりだった。

アレシボ天文台は、カリブ海に浮かぶ米国自治領プエルトリコにある天文台で、巨大な電波望遠鏡があることで知られている。

この望遠鏡は、直径305mの電波の反射面と、その中央の高さ約150mの位置にあるプラットフォームから構成されている。このプラットフォームは、反射面の周囲に立つ3基のタワーから伸びたケーブルによって吊り下げられており、電波の受信機や送信機などの機器を搭載して観測を行っていた。重さは約900tもある。

NSFによると、大西洋標準時12月1日7時55分(日本時間1日20時55分)ごろ、プラットフォームが落下したという。

原因などはまだ調査中としているが、初期調査の結果、3基のタワーすべての上部が折れていることが判明したとしている。また、プラットフォームの落下に伴い、反射面が大きく損傷。さらにケーブルも落下したことで、天文台の学習センターの建物も大きく損傷したという。なお、負傷者は報告されていない。

305m電波望遠鏡は1963年に完成したもので、近年では老朽化が進み、今年8月10日にはプラットフォームを吊っている複数のケーブルのうちの1本の補助ケーブルが破損。反射面上にケーブルが落下した。ケーブルは太さ3インチ(7.62cm)もあり、それだけでもかなりの重さがあったことから、反射面には約30mもの亀裂が入った。さらに11月6日には同じタワーから出ている主ケーブルも破損。反射面の損傷が拡大した。

NSFや民間のエンジニア会社による調査の結果、主ケーブルは最小引張荷重の約60%で破損したことが判明。また、ドローンによる観測の結果、他のケーブルも予想よりも大きく劣化していることも確認された。1本のケーブルは約160本のワイヤーの束によって構成されているが、破損が起きたタワーから出ている他のケーブルにおいて、ワイヤーの束のうち10本ほどが断線していたという。

これにより、同望遠鏡はすでに900tもあるプラットフォームを支えることができなくなっていると推定。また、修理にはすべてのケーブルを交換する必要があるものの、望遠鏡の構造がすでに不安定で、修理が難しく、また修理中に作業員に危険が及ぶ可能性もあること、そして望遠鏡全体の築年数がかなり経っており、ケーブルだけを修理しても長く運用できる見込みがないことなどから、NSFは11月20日、同望遠鏡の廃止、解体を決定した。

しかし、解体作業を待たずして崩壊したことで、不本意な形で57年の歴史に幕が閉じることになった。

NSFは今後、エンジニア会社や天文台を管理するセントラル・フロリダ大学と協力し、まずは安全性の確保を最優先とし、その後被害状況の把握を進め、自然や環境への影響を軽減するための処置を取るとしている。

また、アレシボ天文台には同望遠鏡以外にも、12mの電波望遠鏡や、アレシボの地理研究に使用されているLIDAR(レーザー計測)施設など、科学的、教育的な施設やインフラがあることから、状況を見つつ運用を再開できるようにしたいとしている。

NSFのSethuraman Panchanathan長官は「このようなことになり悲しんでいますが、誰も怪我をしなかったことに安堵しています。エンジニアによる望遠鏡の状態の評価と警告、またそれを受けた安全の確保策が功を奏しました。私たちは今後、被害状況を把握し、望遠鏡以外の天文台の運用を復旧すべく、科学コミュニティとプエルトリコの人々と協力していきます」とコメントしている。

また、セントラル・フロリダ大学の研究部門の副部門長を務めるElizabeth Klonoff氏は「解体前に崩壊が起こりうることはわかっていましたが、それでも実際に起きた様子を見ると心が痛みます。人員の安全が最優先であり、私たちはすでに残っている構造物の安定性と安全性を評価していますそしてNSFなどと協力し、アレシボにおける科学的な活動のサポートする方法を模索していきます」と語っている。

なお、現時点で同望遠鏡の復旧、新造などは計画されていない。同望遠鏡の閉鎖、解体が決まったあとには、修理を求める請願も出されていたが、今回の事故により実現は難しくなった。

305m電波望遠鏡は1963年に完成して以来、その唯一無二の大きさと性能を活かし、中性子星や太陽系外惑星、小惑星の観測、地球外知的生命体探査、地球の電離層の研究など、大気科学、惑星科学、電波天文学、レーダー天文学の分野で何十年にもわたって活用されてきた。また、007シリーズ第17作『007 ゴールデンアイ』(1995年)や、カール・セーガン氏のSF小説を原作とした『コンタクト』(1997年)などの映画の撮影地としても使われ、重要な舞台として大きな存在感を放った。

かつては単一の電波望遠鏡として世界最大を誇ったが、2016年には中国が直径500mもの口径をもつ電波望遠鏡「天眼(FAST)」を完成させたことで、その栄誉を譲ることにもなった。なお、アレシボの305m電波望遠鏡は電波の受信だけでなく、送信する機能もあり、レーダーとして使って地球に接近する小惑星を発見したり、地球外知的生命体がいる可能性がある天体へ向けてメッセージを送ったりといったことにも使われたが、天眼には電波の送信機能はなく、完全な代替にはならないという。

○参考文献

・Arecibo Observatory’s 305-meter telescope suffers collapse | NSF - National Science Foundation
・NSF begins planning for decommissioning of Arecibo Observatory’s 305-meter telescope due to safety concerns | NSF - National Science Foundation
・Repairs Update | The Arecibo Observatory
・Footage of Arecibo Observatory collapse - YouTube

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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