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アレシボ天文台の305m電波望遠鏡、解体へ - 老朽化で破損、修理不可能に

2020年11月24日13時03分 / 提供:マイナビニュース

全米科学財団(NSF)は2020年11月20日(日本時間)、プエルトリコにあるアレシボ天文台の305m電波望遠鏡について、廃止のうえ解体すると発表した。

2020年8月に望遠鏡のケーブルが破損、今月にも別のケーブルが破損していた。修理が検討されていたが、復旧は難しいと判断された。

かつて世界最大の電波望遠鏡として、天文学上の数々の発見や地球外知的生命体の探索で活躍し、映画「コンタクト」などにも登場し大きな存在感を放ったが、57年の歴史に幕を閉じる。

アレシボ天文台305m電波望遠鏡の廃止

アレシボ天文台は、カリブ海に浮かぶ米国自治領のプエルトリコにある天文台で、直径305mもの口径をもつ巨大な電波望遠鏡があることで知られる。NSFが管轄しており、セントラル・フロリダ大学が運営・管理を担っている。

この305m電波望遠鏡は1963年に完成したもので、お皿のような形をした電波の反射面はカルスト地形の窪地を利用して造られている。その周囲には3基のタワーが建ち、そこからケーブルを伸ばし、高さ約150mの位置に900tもの重さのプラットフォームを吊り下げている。このプラットフォームに電波の受信機や、レーダーの送信機などを搭載し、観測を行っている。

しかし2020年8月10日、複数あるケーブルのうちの1本の補助ケーブルが破損。反射面上にケーブルが落下した。ケーブルは太さ3インチ(7.62cm)もあり、それだけでもかなりの重さがあったことから、反射面には約30mもの亀裂が入った。ケーブル破損の原因は明らかになっていないが、この直前に上陸し、通過したハリケーン「イサイアス」の影響が指摘されている。

NSFは交換用の補助ケーブルを手配していたが、交換する前の11月6日には同じタワーから出ている主ケーブルも破損。反射面の損傷が拡大した。また、この2本目のケーブルの状態を調べた結果、最小破断強度の約60%で破断していたことが判明。さらに、他のケーブルも当初の予想よりも老朽化し弱くなっており、一部ではわずかに破損も確認されるなど、すでに900tのプラットフォームを支えることができなくなっている可能性があると推定された。

このため、修理にはすべてのケーブルを交換する必要があるものの、望遠鏡の設計が複雑で修理が難しいこと、また修理中に作業員に危険が及ぶ可能性もあること、そして望遠鏡全体の築年数がかなり経っており、ケーブルだけを修理しても長く運用できる見込みがないことなどから、NSFでは望遠鏡の廃止、解体を決定したとしている。

NSFの天文科学部門の責任者を務めるRalph Gaume氏は「ケーブルの詳細な評価が行われるまでは、私たちは『望遠鏡を修理すべきかどうか』ではなく、『どのように修理すべきか』と考えていました。しかし、ケーブルの状態が明らかになると、安全に修理することができないことがわかりました。安全性をないがしろにすることは、私たちが越えてはならない一線です」と語っている。

現在、望遠鏡の周囲はすでに立入禁止となっており、今後さらなる破損や、大規模な崩壊が起きたとしても、安全性は確保されているという。

なお、解体されるのは305m電波望遠鏡のみで、アレシボの地理研究に使用されているLIDAR施設や、雲量や降水量のデータを解析する施設など、望遠鏡以外の施設や、ビジターセンター、インフラは可能な限り残し、将来の別の研究や教育活動のために利用できるようにすることを目指すという。305m電波望遠鏡を解体することで、こうした施設やインフラを安全に保つことができるとしている。

また、望遠鏡が収集したデータの分析とカタログ作成などといった運用も継続するとしており、すでに2019年から、Microsoft Azureを使ったデータ・プラットフォームの構築が始まっている。

NSFのSethuraman Panchanathan長官は「この約60年間、アレシボ天文台は画期的な科学と、プエルトリコの地域社会とのたしかなパートナーシップを示し続けてきました。望遠鏡の廃止は大きな変化となりますが、私たちは科学者のコミュニティを引き続き支援し、そしてプエルトリコの人々との力強い関係を維持する方法を模索していきます」とコメントしている。

アレシボ天文台の歴史

アレシボ天文台は1963年の完成後、その唯一無二の大きさと性能をもった電波望遠鏡として数々の成果をあげてきた。

なかでも特筆すべきは、1974年にマサチューセッツ大学アマースト校の宇宙物理学者ラッセル・ハルス氏とジョゼフ・テイラー氏が、アレシボ天文台を使った観測で、中性子星(パルサー)の連星(連星パルサー)「PSR1913+16」を発見したことである。連星パルサーの発見は世界初で、それだけでも大きな成果だったが、さらにその軌道の分析から、当時はまだ理論的に予言されているだけにすぎなかった「重力波」の存在を間接的に証明することにも成功。この功績から、1993年に両氏はノーベル物理学賞を受賞した。

さらに、地球外知的生命体の探索にも活用され、1974年には地球から8kpc(2.5万光年)離れたヘルクレス座にある球状星団「M13」へ向けて、地球に知的生命体が存在することをアピールする文面の「アレシボ・メッセージ」が送られたほか、他の科学観測で取得したデータの中に、地球外知的生命体から送られてきた信号がないかどうかを探す試みも行われた。

このほか、中性子星や太陽系外惑星、小惑星の観測や、地球の電離層の研究など、大気科学、惑星科学、電波天文学、レーダー天文学の分野で何十年にもわたって活用されてきた。2018年には観測能力を強化するための超高感度アンテナ「ALPACA」が開発され、プラットフォームに搭載されるなど、この8月の破損まで現役で観測を続けていた。

その一方で近年では、資金不足や老朽化、ハッブル宇宙望遠鏡など他の観測手段の発展などによって閉鎖の危機にさらされた。さらに、ハリケーンや地震に何度も見舞われ、2017年のハリケーン「マリア」でも一部が破損する被害を受けた。また2016年には、中国が直径500mもの口径をもつ電波望遠鏡「FAST(天眼)」を完成させたことで、世界最大の栄誉を譲ることにもなった。

アレシボ天文台はまた、007シリーズ第17作『007 ゴールデンアイ』(1995年)や、カール・セーガン氏のSF小説を原作とした『コンタクト』(1997年)などの映画の撮影地としても使われ、重要な舞台として大きな存在感を放った。

ちなみに、今回の廃止が発表された11月19日(米国時間)は、奇しくも『コンタクト』で主人公エリナー・アロウェイを演じたジョディ・フォスター氏の誕生日でもあった。

○参考文献

・Arecibo Observatory Telescope to be Decommissioned After Second Cable Break | University of Central Florida News
・NSF begins planning for decommissioning of Arecibo Observatory’s 305-meter telescope due to safety concerns | NSF - National Science Foundation
・The Arecibo Observatory | Research center operated by UCF, YEI & UMET and funded by NSF and NASA
・Repairs Update | The Arecibo Observatory

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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