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有名人の自殺報道に専門機関が注意喚起する理由 問題は「葛藤なき発信」

2020年08月10日07時00分 / 提供:マイナビニュース

●木村花さん・三浦春馬さん報道後に通達
7月18日、俳優の三浦春馬さんが自殺で亡くなったというニュースが駆け巡る中、マイナビニュースを含む報道各社に「いのち支える自殺対策推進センター」(以下、JSCP)から、「WHOの『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道の徹底をお願いいたします」と呼びかけるプレスリリースが届いた。メディアの端くれとして、自殺を伝える報道が極めてセンシティブなものであるということを、改めて認識する機会となった。

人気俳優の突然の死というあまりに衝撃的な出来事に、多くの媒体が関連記事を質量ともに大きく報じているが、この現状について、国の指定法人として自殺対策事業を担う専門機関のJSCPはどう見ているのか。清水康之代表理事へのインタビューを通し、自殺報道のあり方を考えていきたい。

○■「自殺報道ガイドライン」逸脱による懸念

WHOの「自殺報道ガイドライン」には、自殺関連報道について「過度に繰り返さないこと」「自殺に用いた手段について明確に表現しないこと」「自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと」「センセーショナルな見出しを使わないこと」「写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと」という“やるべきでないこと”。

さらに、「有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること」「支援策や相談先について、正しい情報を提供すること」「日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること」「自殺と自殺対策についての正しい情報を報道すること」という“やるべきこと”が明示されている。

これが策定されたのは、「自殺リスクのある方が、自殺報道を聞いたり見たりしたことで模倣自殺への誘因リスクを高めてしまうことになるということが、過去のいろいろな経験から分かってきているので、どういう報道すればいいのかというガイドラインを作ることで適切な報道を促そうと、WHOが作ったものです」(清水氏、以下同)

日本では1986年、アイドル歌手の岡田有希子さんが自殺した際、ファンの後追いが相次いで社会問題となったことで知られるが、ガイドラインを逸脱した報道によって、それ以外にも、「もともと『もう死ぬしかない』と不安にかられて思い悩んでいる人が、詳細な手段を知って、背中を押されてしまうかもしれない」ということ。さらに、「家族を自殺で亡くしたご遺族が自殺報道に不意に触れることで、過去のつらい経験を急に思い返すことになったり、亡くなった手段まで報じられれば、ご自身がご遺体を発見したときの記憶を呼び覚まされたりして、心理的に不安定になりかねない」という懸念もあるという。
○■『バンキシャ!』の報じ方に評価

JSCPから報道各社への呼びかけは、5月23日にリアリティ番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラー・木村花さんの死亡が報じられた翌24日にも行われたが、その2カ月後の三浦春馬さんの第一報では、多くのメディアが自殺の「手段」を報じていた。

「木村花さんの時にかなり大々的に報じられていたので、その時も速やかに呼びかけを出しましたが、三浦春馬さんの場合はさらに大きく扱われるだろうと想定できたので、とにかく急いで対応しようと、その日のうちに文書を出しました」と各社に配信。メールでのプレスリリース送信に加え、Twitterアカウントを持っている番組にはJSCPのアカウントからメンションを送り、約200の報道機関・番組・ソーシャルメディア運営事業者などに通達した。

その結果からか、詳細な状況や手段を伝える媒体は徐々に減り、テレビのニュース番組では、各局でこの話題を報じる最後に、悩んでいる人のための相談窓口を紹介するようになった。それにあたって問い合わせをしてくる番組が、JSCPに何件もあったという。

特に、死亡翌日に放送された『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ)については、「手段を報じていないのはもちろんのこと、『自殺』についても、事務所からの発表がないことを踏まえてか、あえてその言葉自体は使っていなかったように思います。おどろおどろしいBGMも使うことなく、事実に基づいて静かに淡々と報じる中で、相談先も当然のように紹介していました。こういう報道もメディアはできるんだなと感じました」と評価している。

●連日多数続く「追悼報道」に問題は?
有名人の自殺が起こると、知人や関係者が故人を偲ぶ追悼コメントを出すことが多いが、そのたびに取り上げてニュースにしていくと、結果として自殺に関連する報道が連日、多数配信されることになる。我々ネットニュースに見られがちなこの状況については、どう捉えているのか。

「まず1つは、ガイドラインにはそこまでのことについては書かれていないということ。より正確に言えば、『自殺により遺された家族や友人にインタビューをするときは、慎重を期すること』とはありますが、それは自殺自体についてであって、生前を偲ぶような内容を指しているわけではありません。我々が身近な人を亡くした後にも“喪に服す”という期間がありますよね。そういう時間は大事なので、亡くなった人の生前の活躍とか存在について話をするというのは、私はあってしかるべきではないかと思います。ただ、そういう報道がどんどん続いて、いつまで経っても過去のことにできないように、過度に煽(あお)り続けるような追悼的な報道というのは、やはり抑制的であるべきだとも思います」

こうしたケースも含め、どこまで報じるか・報じないかというのは、メディア自身がその都度判断していく問題だ。

「自殺報道の第一報もそうなんですが、何をどう報道すべきかについて葛藤する中で、それぞれのメディアが報道すべきだと思っています。ガイドラインには、現場や場所を伝えないこと、自殺の手段を報じないことなどが書かれていますが、例えば学校側が子供のいじめを否定しているときに、真実を伝えるために遺書の文面を出すということもあると思います。そこは、報道の意義と社会的な意義というものがある一方で、自殺リスクを高める危険性との狭間で葛藤して発信していくことが、あるべき姿だと思っています。その葛藤がなく、視聴者や読者の関心という基準のみで自殺報道をしてきたメディアが多いように思うので」
○■木村花さんから三浦春馬さんの事例で起きた変化

2001年にNHKの報道ディレクターとして自殺報道に関わってから、この問題を見つめてきた清水氏。その当初から比べると、2006年に自殺対策基本法が制定されたことをきっかけにメディアの意識も変わっていき、日本の自殺報道は大きく改善されているという。

また、木村花さんと三浦春馬さんの事例を比べると、「メディアの側にいる人から『適切な報道がなされていないのではないか』という検証が行われるようになってきたと思いますし、Twitterでは一般の方が『これはガイドライン違反じゃないか』という指摘が増えたようにも感じました」と、この2カ月の間でも自殺報道をめぐる認識に変化があった。

NHKのアナウンス室では、自殺報道について勉強し直すために、清水氏を講師に招いて研修を行うとのことだ。

●今後はメディア関係者との勉強会も構想

JSCPは、法律に基づいて国として自殺対策を推進する組織として、今年4月1日に厚生労働大臣指定法人として発足したばかり。自殺対策を策定する地方自治体への支援や研修、また自殺や自殺対策に関する様々な調査研究などを事業としている。自治体支援などはこれまで、清水氏が代表を務める「自殺対策支援センターライフリンク」という民間のNPO法人が主に担っていたため、「国の組織が業務として行うようになったのは、大きな一歩です」と語る。

今後の活動については、「万が一、有名人の方がまた急逝することがあれば、今回のようにメディアへの呼びかけを行うことになると思いますが、毎回呼びかけを行わなくていいような状況にできるよう、新型コロナが落ち着いたらメディアの関係者を集めた勉強会もやっていきたいと考えています」と構想。

自殺報道の先進国であるオーストラリアでは、プレス協会がWHOのガイドラインを踏まえた独自のガイドラインを作成しているそうで、「日本でもどういったメディア独自のガイドラインが作れるのか。それは理想論だけを掲げても実際に運用されないと意味がないので、現実と理想の狭間の中で、ギリギリがどこなのかというところを、メディアの方たちと一緒に議論して、各社がガイドラインを作る支援を進めていければ」と話している。

悩んでいる方の相談窓口があります。下記をご覧ください。
・電話:よりそいホットライン
・SNS:生きづらびっと
・いのちと暮らしの相談ナビ(相談窓口検索サイト)

●清水康之1972年生まれ、東京都出身。国際基督教大学を卒業後、97年にNHK入局。01年に『クローズアップ現代』で、自殺により親を亡くした子供たちを1年がかりで取材したのをきっかけに、自殺対策などについて取材を続けるが、推進役のいない日本の対策に限界を感じて04年に退局。同年、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクを設立、09年「自殺対策緊急戦略チーム」メンバーとして内閣府参与に就任(11年まで)、19年一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターを設立し、代表理事に就任。

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