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ソロシネマ宅配便 第6回 高良健吾、史上最高のハマり役 - 映画『横道世之介』

2020年05月08日12時00分 / 提供:マイナビニュース

人は時間を持て余すと、とりあえず掃除をする。

部屋の掃除とは、いわば自分の過去を探る行為でもある。買ったことすら忘れかけていた100均ショップの便利グッズや、15年位前の吉野家の割引券とかがなぜか出てくる。

気づいたら夏日だった外出自粛の大型連休。社会人になってこれだけまとまった時間があるのは初めてだ。仕事に燃え、ある時は仕事に逃げていた中年男たちは、家で慣れない大掃除をして、過去と向き合うハメになる。で、本棚の隙間から学生時代の写真なんかを見つけて思うわけだ。あいつ今なにやってんのかなあ……と。そんな2020年の5月にこそ、オススメしたい家シネマこそ『横道世之介』である。

結論から書くと、この映画は個人的に人生ベスト3に入るレベルの傑作だ。2013年春の劇場公開時に3度映画館で観賞し、ブルーレイを買い年2ペースで見て、iTunesでダウンロードしたサントラは繰り返し聴いている。

吉田修一の原作小説を、沖田修一監督が映画化(共同脚本には前田司郎)。18歳の横道世之介(高良健吾)が大学入学のため長崎から上京してきた1987年春から物語は始まり、16年後の2003年のある出来事に着地する。

冒頭シーンで新宿駅東口に降り立ち、何もない部屋でのひとり暮らしの始まり、かったるい大学入学式、クラスメートとの出会い、年上美女への憧れ、バイト先での社会経験、夏休みの帰省、そしてラブストーリーは偶然に……という世之介の日常を追う。もしかしたら2時間40分、何も起こらない平坦で長い青春映画とがっかりする人もいるかもしれない。でも、いつの時代も意外と何も起こらないのが青春なのである。

この映画は世之介であり、観客側の“過去”の物語でもある。誰もが経験するような普通の日常を、そして大人になり日々の生活の中で忘れてしまったあの頃を、染み入るようなリアルさで思い出させてくれる。

入学式で偶然隣に座った奴がいつの間にか親友になってたあの感じ。あまり乗り気じゃなかった相手なのに一緒に遊んでいる内に好きになっちゃうあの恋のゲーム。なにより、学生時代は時期によって一緒にいる人間が目まぐるしく変化する。映画のあらゆるシーンで「あぁ10代の頃ってそう言えばそうだったよなぁー」の連続だ。

高良健吾史上最高のハマり役・世之介、同級生の倉持(池松壮亮)、加藤(綾野剛)、小沢(柄本佑)、阿久津唯(朝倉あき)、世之介の父(きたろう)や母(余貴美子)、凄まじい存在感を発揮する川上清志(黒田大輔)。とにかく登場人物が皆魅力的で、現在の映像にCG処理を施した1987年の新宿(斉藤由貴のカセットテープ「AXIA」の街頭広告も再現)や、JR菊名駅近くの商店街をベースに丁寧に作り込んだ80年代の下北沢駅前も素晴らしい。西武の伊東勤がホームランをかっ飛ばす、お茶の間にプロ野球ナイター中継が当たり前にある風景の描写も野球ファンとしてはうれしくなる。

なにより、吉高由里子演ずるお嬢様・与謝野祥子がどうしようもなく最高だ。世之介のボロアパートで初めてふたりで過ごすクリスマス。気合い入れて部屋の飾り付けをしてふたりでケーキを食べたら、とりたててやることもなくなり、コタツに入りながら絵を描く祥子。世之介が窓の外を見ると雪がちらついている。思わず外に飛び出るふたり。ここで流れる音楽は高田漣の「雪の日」。他愛のないやり取りが微笑ましくて切なくて、何度も見てしまう。

映画の終盤、2003年に35歳の大人になった祥子が、ふとタクシーの中から16年前の自分たちを思い出すシーンがある。ここもうおじさんにはダメだ。泣けてしょうがない。だって、祥子に対してド下手な誘い方をする10代の世之介、あれ昔の俺らそのものだもの。必死でバカで楽しかったよねえ…なんつってもう絶対に戻ってこない人間関係と膨大な時間。もちろん今は今で仕事もそれなりで家族もいて面白いけど、ちょっと楽しさの質が違う。まあ世の中がいろいろと騒がしく現実が不安な時くらい、ノスタルジーに浸るのも悪くない。

『横道世之介』はユルく楽しく切ない。なんだか無性にあの頃の友達に会いたくなる名作だ。部屋の掃除が終わったら、誰かの結婚式以来会ってないあいつらとZoom飲み会でもしようと思ったよ。

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