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欧州宇宙機関、2025年にスペース・デブリ除去衛星を打ち上げへ

2019年12月19日08時00分 / 提供:マイナビニュース

●その名は「クリアスペース1」 - 民間のスタートアップ発の衛星
欧州宇宙機関(ESA)は2019年12月9日、2025年にスペース・デブリを除去する衛星「クリアスペース1」を打ち上げると発表した。

衛星の開発や、デブリ除去などの運用は、民間のスタートアップ企業「クリアスペース」が実施する。

2000年代に広く認知されたデブリ問題は、2010年代を通じた研究・開発を経て、いよいよ2020年代、実際にデブリを除去し、根本的な解決を図る段階に入ろうとしている。その期待と課題を追った。

スペース・デブリとは?

運用を終えたり故障したりした人工衛星、衛星を打ち上げたロケットの残骸、またそれらが爆発したり衝突したりして発生した破片など、「スペース・デブリ(宇宙ゴミ)」は、いわば宇宙の環境問題として、かねてより世界中で大きな問題となっている。

デブリは現在、地上から観測できる10cm以上の物体が約2万個、また観測はできないものの、理論的に推定されている数字として、1cm以上のものが50~70万個、さらに1mm以上のものは1億個を超える数が存在するとされる。

そして、こうしたデブリは、運用中の衛星に衝突して破壊することもある。運用中の衛星も、こうしたデブリも、低軌道では秒速約8kmで地球を回っているため、もし衝突すると、そのときの相対速度は秒速10~15kmにもなり、たとえ小さなデブリでも衛星を破壊するほどのエネルギーとなる。

実際に、2009年には米国の通信衛星イリジウムと、運用を終えたロシアの軍事用通信衛星が衝突するなど、デブリが衝突した事例はわかっているだけで3件、その疑いがあるものも含めると6件確認されている。

また、大きな衛星やデブリが衝突したり、そしてデブリ同士が衝突することでも、そこから新たに大量のデブリが発生し、それがさらに他の衛星などに対する脅威にもなる危険もある。そしてデブリ同士の衝突によって発生した破片が、次の衝突を引き起こし、さらにまた次に……と、衝突が連鎖的に起きる「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる事態も懸念されている。

さらに近年、小型衛星を数十機から最大数万機も打ち上げ、いわゆる「メガ・コンステレーション」によって地球観測や通信サービスを展開しようという動きが活発になっている。衛星の数が増えれば、その分デブリが衝突したり、衛星がデブリ化したりする確率も上がるため、デブリ問題はこれまで以上に問題となりつつある。

こうした状況から、世界各国ではさまざまな対策が取られて始めている。たとえば、デブリを発生させないようなロケットや衛星を開発したり、衛星の運用終了時には積極的に軌道から離脱するようにしたりといったことをはじめ、デブリの軌道を追跡し、運用中の衛星に衝突しそうなら回避したり、さらに小さなデブリの衝突に耐えられるバンパー(衝撃吸収装置)を装備したりといった動きもある。

そして近年、デブリの発生源となりうる大きなデブリについては、衛星などを使って回収し、地球の大気圏に落として焼却処分しようという動きも出始めている。小さなデブリは回収が難しく、自然に大気圏に再突入するなどして消滅するのを待つしか、事実上手立てがない。しかし、大きなデブリであれば回収することができるうえに、大きなデブリは大量のデブリの発生源にもなりうるため、積極的な除去が求められている。

現在の研究では、混雑した軌道にある大型のデブリを、年間5~10個程度除去すれば、デブリの総数を現状レベルに維持できると予測されている。

デブリ除去を目指すスタートアップ企業「クリアスペース」の挑戦

こうしたなか、欧州宇宙機関(ESA)は、デブリ除去ミッション「クリアスペース1(ClearSpace-1)」を実施することを決定した。

ESAの計画ではあるものの、実際の開発や運用などは、民間のスタートアップ企業「クリアスペース(ClearSpace)」が、ESAとの契約に基づき、商業サービスとして実施する。同社はスイスに拠点を置く、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のデブリ研究者らが立ち上げたスピンオフ企業である。

ESAはかねてより、米国航空宇宙局(NASA)と共同で、「ADRIOS(Active Debris Removal / In-Orbit Servicing)」と呼ばれる、デブリに安全に接近したり、捕獲したりするための技術開発を行っており、その成果が移転されるという。

デブリを除去する衛星はクリアスペース1チェイサーと呼ばれ、先端に4本のロボットアームをもち、デブリに接近し捕獲。そして、デブリを抱えた状態で軌道から離脱し、大気圏に再突入することで、自らとともに処分する。

同社の創業者でCEOのLuc Piguet氏は、「メガ・コンステレーションなどの登場で、今後数年で衛星の数は桁違いに増加します。今後、交通量の多い軌道から故障した衛星を除去する『レッカー車』のような衛星が必要であることは明らかです」と語る。

初打ち上げは2025年の予定で、回収のターゲットとなるデブリには、2013年に打ち上げられた欧州の小型ロケット「ヴェガ(Vega)」から発生した、ヴェスパ(Vespa)と呼ばれる衛星アダプターが選ばれている。ヴェスパは質量100kgと小型の物体ではあるものの、形状が単純で構造も頑丈であり、捕まえやすいことが選んだ理由だという。

ヴェスパは現在、高度約800km×660kmの軌道を回っており、チェイサーはまず高度500km未満の低い軌道に打ち上げられたのち、徐々に接近して捕まえる。

また将来的には、より大型で、捕まえるのが難しいデブリの除去にも挑みたいとしている。

●日本も挑むデブリ除去とビジネス化 - その課題と展望
日本の動き

デブリの除去をめぐっては、欧州と並んで日本も力を入れている。

なかでも「アストロスケール(Astroscale)」は、スペース・デブリの除去を商業サービスとして展開することを目指しており、すでにこれまでに166億円を超える資金調達に成功している。

2017年12月には、デブリを観測するための衛星「IDEA OSG-1」をロシアのロケットで打ち上げたが、ロケット側の問題で打ち上げは失敗に終わった。

しかし同社はそれを乗り越え、2020年には「ELSA-d (エルサ・ディー)」と名付けた、デブリ除去技術の実証衛星の打ち上げを計画している。ELSA-dは、実際にデブリを捕まえるわけではなく、捕獲機(質量約180kg)と、デブリを模擬した衛星(約20kg)を結合した状態で低軌道へ打ち上げ、捕獲機に装備した磁石を用いて、衛星の捕獲と放出を繰り返す。研究・開発には宇宙航空研究開発機構(JAXA)も協力している。

これにより、デブリへの接近や診断、そして捕獲と、捕獲後の軌道変更に至る、デブリの除去に必要な一連の流れを試験し、その成果を受けて、将来的には実際にデブリを除去する衛星を打ち上げたいとしている。

また、先ごろ人工流れ星を作り出す衛星2号機の打ち上げに成功した「ALE」は、JAXAと共同で、導電性テザー(EDT:Electro-Dynamic Tether)を用いたデブリ除去技術を開発している。

EDTは、ひも(テザー)を伸ばしてそこに電流を流し、地磁場との干渉により生じる電磁気力をブレーキ力として利用し、デブリの軌道を下げ、最終的に大気圏に落とすというもの、燃料が不要という大きな特徴をもち、今後打ち上げられる人工衛星やロケットの上段などEDTをあらかじめ搭載しておけば、比較的簡単にデブリ化を抑制できる。

ALEでは2021年の軌道上実証を目指している。

このほか川崎重工などいくつかの企業でも、デブリ除去衛星や、そのための部品の開発などに挑んでいる。

こうした流れに応じて、JAXAでは、デブリ除去を宇宙ビジネスとして振興することを目指し、民間事業者が新たな市場を獲得することを目的として、大型デブリの除去などの技術実証「商業デブリ除去実証(CRD2、Commercial Removal of Debris Demonstration)」を実施することを検討している。すでに提案要請(RFP)が行われており、2019年12月中にも選定、契約相手が発表される予定となっている。

JAXAでは、比較的実証が容易かつ、大量のデブリの発生源ともなりうる、ロケット上段デブリの除去を念頭に置いており、軌道上にある日本が打ち上げたロケット上段などを対象として除去することを検討している。

また、スペース・デブリの軌道などを正確に把握するための動きも始まっている。

スペース・デブリを含む、軌道上にある物体をデータベース化し、監視するとともに、軌道を解析し、衛星と接近する危険があるときは警報を出すなどの活動を「宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)」と呼ぶ。JAXAではかねてよりSSAに取り組んでおり、JAXAの衛星への接近解析、大気圏に再突入する物体の予測などの研究を行ってきている。また現在は、レーダーや望遠鏡などの能力向上や改良なども行っている。

さらに現在、SSAは安全保障にも結びつくことから、防衛省・自衛隊も力を入れ始めているほか、きわめて高いSSA能力をもつ米国との協力・連携もより強化されることとなっている。またこれを受け、2020年代には、JAXAやSSA関連施設と、防衛省をはじめとした関係政府機関などが一体となった運用体制を構築することとなっている。

これによってデブリの軌道などをより正確に把握できるようになれば、デブリとの衝突回避や、より効率的な除去などに大いに役立つであろう。
デブリ除去のビジネス化の課題と展望

昨今、大きな問題となっている気候変動をめぐっては、温室効果ガス排出量の低減などのカーボン・ニュートラルな活動を、成長戦略やビジネス・チャンスと捉える向きが出始めている。

そして宇宙の環境問題であるスペース・デブリ問題も、こうして国の機関と民間企業を挙げて、ビジネスとして成立させ、そして解決しようという動きが出始めた。この芽がうまく育てば、デブリ問題の大きな解決策となるばかりか、新たな市場を生み出すことになり、そして市場が確立されれば、効率的かつ持続可能な形でのデブリ除去が進むことが期待できるなど、大きな可能性がある。

ただ、デブリ除去に非協力的な機関や企業が打ち上げた衛星やロケットに由来するデブリをどうするかなど、誰がどこに、どこまで責任をもつのか、そしてお金を出すのかといった問題や、事故が起きた際などの責任の問題など、とくに法整備の点で課題はまだ多い。

また、デブリに接近して除去する技術は、軍事衛星をスパイしたり破壊したりする、いわゆる衛星攻撃兵器(ASAT)にも転用可能であり、悪用されないよう、注意深く扱わなければならないものでもある。

こうした課題を解決し、デブリ問題の根本的な解決策となるデブリの除去に向け、大きく羽ばたくことができるのか。2020年代の宇宙ビジネスにおける熱い話題となりそうだ。

○出典

・ESA - ESA commissions world’s first space debris removal
・ClearSpace One - A Mission to make space sustainable
・宇宙ごみ除去のアストロスケールが民間世界初、除去実証実験機「ELSA-d」のシステム組立・試験を始動
・ALE、経産省による宇宙産業補助金の対象事業者に採択 スペースデブリ対策技術の2021年実証へ加速 ー ALE Co., Ltd.
・商業デブリ除去実証|JAXA|研究開発部門

著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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