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コネクテッドな世界で新たな価値を生み出すヤマハのデジタル変革

2019年01月25日11時01分 / 提供:マイナビニュース

●マーケティングの本質は“利益を生み出すためのプロセス”
ヤマハ発動機といえば、世界3位のオートバイメーカーとしてホンダ、スズキ、カワサキと共に市場を牽引していることで知られているが、そのビジネス領域はオートバイに留まらず、電動アシスト自転車、ボートやヨットなどのマリンビークル、スノーモービル、電動車いす、発電機、そして産業用機械やロボット、汎用エンジンなど非常に幅広く、いずれの事業もグローバルに展開している。このヤマハ発動機の先進技術本部において、高度な専門性を活かして会社の成長戦略を担うコーポレートフェローとしてデジタル戦略の舵取りを担うのが、かつてインテルで常務執行役員を勤めた平野浩介氏だ。

平野氏は、インテルで培った経験とデータやテクノロジーを活用して、多岐にわたるビジネス領域に対してどのようなデジタル変革を実現したいと考えているのか。また、その背景としてどのような課題を感じているのだろうか。平野氏にヤマハ発動機が目指すデジタル戦略の将来像について聞いた。

まず平野氏に伺ったのは、日本と欧米を比較した「マーケティング」に対する考え方の違いと、日本企業における課題だ。平野氏は、「欧米のグローバル企業において、マーケティングはプロフィット・センター。つまり、企業の利益を最大化するためにビジネスの全体像を考え、ブランド、製品企画、広告、販売促進など利益を生み出すためのプロセスを一気通貫で見ていくことだ」と定義。その上で、日本企業においてはこうした意味におけるマーケティングを実践できている企業が多いとは言えないと指摘した。

確かに、日本企業において製品企画、広告宣伝、広報、販売促進など様々な部門が「マーケティング」を標榜しており、その定義は企業によっても異なり非常に複雑に見える。しかし平野氏の定義に当てはめると、本来はこうした様々な機能を統合的に推進して利益の生まれる仕組みを考えていくのが、マーケティング部門の役割だというのだ。一部の一般消費財メーカーのなかには、こうした統合マーケティング部門を置きはじめる動きがあるが、「ヤマハ発動機を含めて、製造業ではまだまだ十分だとはいえない。日本企業ではマーケティングの様々な機能が分散しており、相互のシナジー効果も乏しいのではないか」と平野氏は課題提起した。

例えば、日本の製造業では“いいモノづくりをする”ことがビジネスを成功させるための最大のミッションだと信じられてきた。つまり、緻密にデザインされた高品質な工業製品を、最適なコストと高い生産性、高度な生産技術によって量産し、それを世界中に販売して日本企業はグローバル企業へと成長していった。この点については平野氏も「高品質な工業製品を作るという点において、日本は世界に負けていない」と語る。

しかし、こうして作られた製品が、今の時代に“いいモノを作れば売れる”と言えるのかというと、話は大きく変わってくる。平野氏はこの点について「そこまで品質にこだわって作った製品が、対価を支払って購入する顧客に対して最適な価値提供になっているのか」と問う。つまり、その製品を強いこだわりをもって製造したとしても、それが消費者のニーズや欲求を満たし、100万円を支払って購入するだけの価値を持っているかは別問題。その製品よりもはるかに安いコストで製造された別の製品のほうが、消費者のニーズや欲求を満たしていれば100万円で売れるかもしれないのだ。

この「顧客にとっての価値」を考えることが、製造業におけるマーケティングの重要なポイントだと、平野氏は指摘する。

「物理的なスペックや品質は素晴らしくコストも最適化されていても、実際に買ってもらう顧客にとっての価値は決してコストの積み上げではない。日本企業は、顧客への価値創造をもっと真剣に考えなければならない」(平野氏)

この点について平野氏は、「ヤマハ発動機の商品企画においても、“顧客が何を求めているのかを知る”という作業が十分だとは言えない。セグメンテーションして顧客が求めている価値をもっと深堀して理解しなければならない」と課題を提起する。

例えば、ヤマハ発動機ではユーザーアンケートなどを実施しているが、その数は数百人規模に留まる。一方、デジタルを活用すれば数百万人規模にアンケートを実施して、回答者をセグメンテーションして分析することも難しいことではない。顧客がヤマハ発動機の製品・ブランドに何を求めているのかを広く深く知ることが、マーケティングの端緒として重要な意味を持つのだ。

「もちろん、モノ作りは自分たちのこだわりを体現するものでもある。これはブランドにとって強みではあるが、こだわりに縛られすぎると対象の顧客を絞り込むことになってしまう。それでいい場合もあるが、その際にどのようなビジネスプランを描いて利益を生み出していくのかを考える必要がある」(平野氏)

●世界のベストプラクティスを活用して、デジタル変革を急速に推進
このように、ヤマハ発動機を含めて日本企業のマーケティングに対する課題を伺ったところで、具体的に現在のヤマハ発動機にはどのような課題があり、それをデジタルによってどのように変革していきたいのか。平野氏の構想を伺った。

平野氏がまず指摘したのが、データ管理の全体最適ができていないという点だ。ヤマハ発動機は、日本国内で販売会社(販社)を拡大し、海外へと展開してグローバル企業へと成長していった。平野氏は「その歴史的な経緯があるという背景があるためだが」という前置きをしたうえで、国内外100以上の関係会社・現地法人の基幹ITシステムがバラバラで、個別最適はされているもののグループ全体を統括できておらず、ヤマハ発動機のビジネス全体を考えるマーケティング機能が弱いのだという。

「データがサイロ化しており、アジャイル経営、迅速な経営判断ができていない」と平野氏。「System of Record(データを記録し管理するシステム)」と呼ばれる企業の差別化に影響しないデータ管理のレイヤーには、世界で実践されているベストプラクティスを導入してデジタル変革を推進していくとした。

そのデジタル変革の先に平野氏が描いているのが、“コネクテッドな世界の創出”だ。具体的には、オートバイ、電動アシスト自転車、マリンビークルなどあらゆるヤマハ発動機製品をクラウドに繋ぎ、それによって蓄積されていくデータをサービス展開などに活かしていったり、生産拠点へのIoT導入などによって機械がクラウドに繋がるスマートファクトリー化を推進し、世界中にある生産拠点の生産体制を最適化したり、メーカーとユーザーが繋がることで、製品の使用動向の分析やユーザーのブランドエンゲージメントの分析を推進したりするのだ。

「工場が生み出すデータ、製品が生み出すデータ、基幹システムが生み出すデータ、ソーシャルが生み出すデータ、これらのデータを分析することで、データの利活用にチャレンジしていきたい。データを有効活用することで、モノ+コトの展開が可能になる」(平野氏)

例えば、ユーザーとメーカーが繋がるという点については、自動車販売のビジネスモデルと同様、販売店に製品を卸すまでがメーカーのビジネスで、メーカーがエンドユーザーのことを深く知ることは非常に難しかったのだという。

ヤマハ発動機でも、ユーザー情報の管理やコミュニケーションは販売店に任せ、メーカーは製品保証のためのユーザー情報は保有していたが、リコールなどの場合を除きメーカーからユーザーに直接コンタクトをとることはなかったのだそうだ。また、 商品企画や戦略立案も商材によって縦割りで販売チャネルも違い、ユーザーに対してクロスセリングできる状態にもなかったという。

「マーケットの潜在顧客、ピュアなヤマハファンがどれくらいいるかも把握していなかった。カスタマージャーニーの分析は今のマーケティングでは当たり前だが、その点もおろそかだった」と平野氏は語る。

こうした課題を踏まえて、いまヤマハ発動機では“マーケットを知る”、“顧客を知る”という作業を急速に推進しているのだという。

「世界中で500万台以上のバイク、ボートや船外機(ボートのエンジン)などを含めると700万台以上のヤマハ発動機製品が売れていて、累積すれば年間4000万人以上の人がヤマハ発動機製品を使っている。デジタル変革を急速に進めることでこうした人たちと繋がり、加えてこれからヤマハユーザーになってくれるようなポテンシャルのあるユーザーと繋がっていくためのチャレンジを進めていきたい」(平野氏)

●データマーケティングに、なぜ工場稼働率のデータが必要なのか
こうしたデータ分析・利活用の基盤として、ヤマハ発動機ではトレジャーデータの「Arm Treasure Data eCDP」を導入。そこにあらゆるデータを統合して顧客をナーチャリングし、ポテンシャルの高い消費者をビジネスにつなげていきたいという。そこには、生産性を測る工場稼働率のデータや基幹系情報システム「ERP」といった一見するとマーケティングとは無関係と思えるデータやシステムも繋がれていくいくというが、その目的について聞いた。

平野氏はこの点について、「こうしたデータは一見するとマーケティングとは無関係だが、ビジネスの全体最適を考えると、工場稼働率やビジネスの状況にどう最適化していくかというのは非常に重要だ」と語る。

サービスを提供する企業や、安価で在庫の流通量が多い消費財などと異なり、ヤマハ発動機が製造・販売する製品は、在庫を多く抱えたり、生産が追い付かず納期が遅れたりすることが経営上の大きなリスクになる。つまり、工場稼働率によって採るべきマーケティング戦略が大きく異なるのだ。

「ビジネスの最大化のためには、顧客を深く知った上でセールス・マーケティング・生産体制を最適化しなければならない。データ分析によってどのような戦略がより多くの利益を生み出すことができるのかをシミュレーションできれば」と平野氏は語る。

またこの点については、先進技術本部でデジタル戦略を担当する大西圭一氏も「ビジネスの最適値を考えるためには、経営情報と工場稼働率のデータも必要だ」と指摘する。

大西氏によると、現在ヤマハ発動機が世界に展開する工場では独自の進化や個別最適化が進んでいる面があるが、実際のところ国によって市況は大きく異なるという。

「仮に市場が伸長しているある国の工場稼働率が100%で、別のある国は工場稼働率に余裕がある場合、サイロ化していると工場稼働率100%の工場を拡張することを考えるが、今後は共通のデータ基盤で生産状況を把握することで、国や地域をまたいだ生産能力の融通やマーケティング戦略に応じた生産体制の最適化が可能になる」と大西氏。

今後は、市場や顧客の情報と工場始めサプライチェーンで生まれる情報を統合的に分析し、需要予測をした上でマーケティング施策、生産計画にまで落とし込みたい考えだ。

「人工知能を用いた予測モデルはチャレンジしたい領域。例えば、競合企業が新製品を出した際に市場がどう動いたのか。経済動向やソーシャルトレンドの変化によって市場はどう動いているのか。様々なデータを統合しながら、予測モデルを構築していきたい」(平野氏)
○データ利活用の先にある、ヤマハ発動機の未来

では、こうしたデータ基盤の構築、データを利活用するための仕組み作りの先に、ヤマハ発動機はどのような未来のモノづくり、新しいサービスの構築を描いているのか。最後に、平野氏に今後の構想を聞いた。

ひとつは、スク―ターなどのシェアリングエコノミーをはじめ、移動手段としてのオートバイの新しい価値の創出、オートバイの状態をモニタリングして事前に故障を予防する仕組みの開発、そして東南アジアなどで多いオートバイのローン販売に対してローン会社が車体を遠隔管理できる仕組みの開発など、コネクテッドの利点を活かした新サービスの創出が考えられるという。

加えて、平野氏は「個人的な意見だが」と前置きしたうえで、「ヤマハの特徴を生かすのであれば、サービスや機能といった実用的な部分だけでなく“ヤマハらしい楽しみ”をどう創出できるかに挑戦したい」と語る。

テクノロジーの進化は仕事や日常生活に効率をもたらし、2045年には人工知能が人間の知能を超える“シンギュラリティ”が起きると言われている。シンギュラリティで変わるライフスタイルの在り方は、近い将来の大きなテーマだ。

「そこでヤマハ発動機は実用的なものだけではなく、楽しみを提供しなければならない」と平野氏は提言する。

「“Revs your Heart”というブランドスローガンにもあるように、ヤマハ発動機は人の心を動かす企業でありたい。そのためには、車体番号で顧客を管理するだけでは十分ではなく、人をわかり人に寄り添う企業でなければならない」と平野氏は語る。

平野氏が推進するデジタル戦略は、高品質な工業製品を開発・生産して支持を獲得してきたこれまでのヤマハ発動機から、その製品を使う人に寄り添い高い付加価値を提供してニーズに応えるヤマハ発動機への変革の始まりなのだ。

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