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さらに進化したスペースXの火星移民計画と、新たなる「月世界探険」 第1回 『タンタンの冒険』に着想を得て、生まれ変わった「BFR」

2018年10月01日07時15分 / 提供:マイナビニュース

それは、十五夜を間近に控えた日本にとって、降って湧いたような、驚くべき大きな発表だった。

米宇宙企業「スペースX」を率いるイーロン・マスク氏は2018年9月18日(日本時間)、新型ロケット「BFR」の最新の開発状況について明らかにするとともに、2023年にBFRを使い、世界初となる月旅行を実施すると発表した。

この月旅行に赴くのは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」などを運営するスタートトゥデイの前澤友作(まえざわ・ゆうさく)社長。それも単なる旅行ではなく、さまざまな分野のアーティストも招待し、宇宙でこれまでにない芸術作品を生み出すことを目的とした、前代未聞の計画である。

○ITSからBFR、そして新BFRへ

「BFR (Big Falcon Rocket)」はスペースXが開発中のロケットで、直径9m、全長100mを超える巨体をもち、最大100人もの乗客、もしくは100トンもの物資を打ち上げられる性能をもつ、史上空前の規模のロケットである。

マスク氏が100人乗りの巨大ロケット・宇宙船を開発するという構想を発表したのは2016年のことだった。当時は「ITS (Interplanetary Transport System)」という名前で呼ばれており、機体もいまよりさらにふたまわりほど大きかった。

マスク氏はかねてより、戦争や疫病、小惑星の衝突など、いつか訪れるかもしれない地球滅亡の危機から人類を救うため、火星などの他の天体に移住する必要があると考えており、ITSはそれを実現するための、いわば"現代のノアの箱舟"として考案された。

それから1年後の2017年、マスク氏は計画の「改訂版」として、ITSを小さくしたBFRを発表した。それでも史上最大のロケットであることには変わりない。また、打ち上げ能力もやや下がったものの、それでも150トンのものを打ち上げられる、世界最強の性能をもっていた。

ロケットは2段式で、1段目は巨大ブースター、2段目はロケットの第2段と宇宙船を統合した機体となっている。また、2段目を推進剤の補給船(タンカー)にした機体もあり、先に打ち上げた宇宙船と軌道上でドッキングし、推進剤を補給することで、月でも火星でも150トンの物資をそのまま運ぶことができるとされた。

さらに月や火星への移住だけでなく、巨大な人工衛星の打ち上げや国際宇宙ステーションへの飛行といったミッションにも活用するとし、現在同社が運用している「ファルコン9」や「ファルコン・ヘヴィ」といったロケットや、「ドラゴン」宇宙船を代替。さらに、地球上の都市間を結ぶ極超音速旅客機としても使用するといった計画へと変化した。

もちろん、同社のロケットといえばおなじみの、着陸・回収と、機体の再使用、そしてそれによる低コスト化も図られており、1段目も2段目も再使用することで、1回あたりの打ち上げコストを約700万ドルにできるとされた。これにより「一人当たり家が一軒買えるくらいの値段(数千万円)」で火星に行けるようになるとしている。

○新BFRはここが変わった

今回発表された新BFRの中で、昨年と比べ、最も目立つ違いは「翼」だろう。機首部分に新たに小さな翼が追加されるとともに、機体後部の翼は大きくなり、また形も変わり、後ろ向きに角度のついた後退翼になった。さらに、同じ形の垂直尾翼も追加されている。

このうち垂直尾翼以外の翼は、付け根から折れ曲がり、羽ばたくように可動する。マスク氏によると、大気圏内を降下する際にこの翼を適時可動させることで、機体の姿勢を制御するのだという。この降下方法をマスク氏は「スカイ・ダイバーのように」と形容する。スカイ・ダイビングでは、手足を動かして体の姿勢や降り方などを制御するが、BFRも同じように、前部と後部にある翼を動かすことで、姿勢を制御しながら降りていくのである。

つまり、この大きな翼は、シャトルや飛行機のように"飛ぶ"ためではなく、機体の姿勢を制御するために装着されている。

ちなみに、垂直尾翼となる位置にある翼は固定式で、そもそも垂直尾翼としてほとんど役に立たない。大気圏を飛行している際のBFRは迎え角が大きく(機体が大きく上体反らしをしているような体勢)、胴体が壁となって垂直尾翼に空気が当たらないためである。また、着陸時はロケットの後部を下にして垂直に降りるため、"尾"翼にもならない。

にもかかわらず、なぜ3枚目の翼を追加したのかについて、マスク氏は「『タンタンの冒険』(に出てくるロケット)に影響を受けました。美しいでしょう?」と語る。

もちろん、これは半分冗談、しかし半分本気である。じつは各翼の先端には着陸装置が組み込まれており、着陸時にはこの3枚の翼を脚として着陸時に機体を支えるようになっており、いちおうの実用性はある。

とはいえ、翼として役に立たない以上、垂直尾翼の部分はわざわざ翼の形にする必要はなかったはずであり、『タンタンの冒険』に影響を受けたとか、美しさを優先したというのも、あながち冗談ではないのだろう。

○打ち上げ能力は低下するも未だ史上最強

このほか目立つ違いとしては、第2段に装備される「ラプター」ロケット・エンジンが、従来の6基から7基へと増えたことが挙げられる。

また、従来は大きなノズルをもったエンジンを装備する計画だったが、第1段と同じ、小さなノズルになっている。小さなノズルは大気圧の高い地上付近で高い効率が、大きなノズルは大気のない宇宙空間で高い効率が発揮できるため、宇宙を飛ぶ2段目に小さなノズルのエンジンを装備するのは、打ち上げ時の効率という点では悪手である。

マスク氏によると、1段目のエンジンと共通化することによる開発リスクとコストの低減や、また2段目が地球上に着陸する際や、大気圏内を飛行中に脱出する際などの効率を念頭に置いた設計変更だとしているが、その代償に打ち上げ能力は落ち、旧BFRの地球低軌道に150トンから、100トンになっている(ただし将来的に真空用エンジンへの換装は可能だという)。

それでも、完成すれば史上最大の打ち上げ能力をもつロケットになることには変わりなく、また軌道上で推進剤を補給することで、月や火星へも、同じ100トンの物資を運べるという点も変わっていない。

さらに全長がやや伸び、「内部空間も広くなった」(マスク氏談)ほか、機体の後部に貨物区画が新たに設けられるなど、細かい部分もいくつか変わっている。

マスク氏は「これが最後の大規模な設計変更になるでしょう」と語り、細かい変更はあれど、基本的にはこの姿かたちの機体が、実際に飛び立つことになるとの見通しを示唆した。

ただ、再使用の回数や、打ち上げコストの目標値などについて、旧BFRから変更があったかどうかについては、具体的な言及はなかった。言及がなかったということは変化もないと解釈できるが、今後の情報を注意深く見守る必要があろう。

とにもかくにも、実現に向けて進化を遂げたBFRだが、この日はもうひとつ大きな――そして世間にとってはこちらのほうが大きな衝撃をもたらすことになった発表も行われた。民間人による月旅行計画、『タンタンの冒険』に倣って言えば「月世界探険」計画である。

(次回に続く)

○参考

・First Lunar BFR Mission | SpaceX
・#dearMoon
・Mars | SpaceX
・Japanese billionaire reserves moon flight with SpaceX - Spaceflight Now

著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info

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